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【完結】国立第5魔導研究所の研究日誌  作者: 九条美香
新人魔導師、発表会に参加する
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同日、女王陛下の仰せのままに

 零は夏希の手を引いて食堂へと戻っていく。


「僕は妹と……一花と、戦わなくてはいけません。貴女が死ぬなんて、僕は耐えられない」

「……あたしだってそうだ。戦う」

「他の子を巻き込むわけにはいきませんから。安全な場所に逃げてもらいましょう」

「そうだな……国外なら安全だろ」

「は? 何言ってんの」


 様子を見に来ていたのだろう。壁にもたれかかっていた恭平が、心底馬鹿にした口調で言った。


「オレらだって戦うに決まってる」

「2人が死ぬなんておかしい」

「天音が捕まるのもおかしい」


 扉から顔を覗かせた双子が恭平に続いた。背後では、何やら怪しげな機械を準備している葵と、それを止めない透が見える。和馬は厨房に籠り、食事を作っていた。雅と由紀奈は大量の包帯やガーゼを用意し、天音はあちこち本をひっくり返して魔導の復習をしている。


「皆、戦う気マンマンッスよ!」

「逃げたりなんてしません」

「2人で背負わないでください」

「わらわを除け者にしようなど、1000年早いわ!」

「私を置いていくのもっ、1000年早いです……っ!」

「皆、お2人の味方です」


 皆の声を聞くなり、夏希は凄まじい勢いで目を瞑って俯いた。そうしないと、また涙がこぼれそうだったから。


「お前ら……バカじゃねぇの……」

「バカでもいい」

「いいから、死のうとしないで」


 双子が零と夏希、それぞれを押して、食堂の席に座らせた。


「まずは、体力と魔力を回復させましょう。戦うのは、それからでいいはずです」


 全員の好物を用意した和馬が、テーブルいっぱいに皿を並べていく。それぞれが定位置に座って、「いただきます」の号令と共にあちこちから箸が伸ばされた。


「……僕たちも、食べましょうか」

「……あぁ」


 少し遅れて、2人も箸を取った。










 テーブルに置かれた皿が全て空になり、片付けられたころ。魔力回復効果のあるハーブティーを飲みながら、一同は作戦会議を行っていた。


「ここ以外の国立研究所はもうダメだな」

「ですね……」


 輝夜以外の所長と副所長が裏切ったとなると、研究所は「白の十一天」に支配されていてもおかしくない。


「私設の研究所はどうでしょう?」

「多分、そこは狙われてる」

「どこにいるんでしょうね……」


 首を傾げながら天音がうんうん唸っていると、夏希がポツリと呟いた。


「第1研究所」

「え?」

「第1だ、いるならそこしかねぇ」

「なんで断言できるんですか?」

「あそこなら魔導考古学省とも近い。それに、研究発表会の会場から瞬間移動の術で着く」


 瞬間移動は便利だが、移動できる範囲が狭いという欠点がある。もちろん、近くにいると見せかけて遠くまで逃げたという可能性もあるが、地方には博物館も私設の研究所も少ないので、正しいように思えた。


「それに、あそこは……」

「僕たちにとって始まりの場所であり、忌まわしき場所でもあります。一花が選んでもおかしくない」

「つ、つまり、私たちは第1研究所の防御魔導を突破しないといけないんですか!?」


 由紀奈が絶叫した。この国の最高峰、第1研究所には、ありとあらゆる防御魔導がかけられている。侵入することは不可能だと言われているほどだ。


「忘れたのか? あたしは『破壊の星の子』、そんなモン、3秒ありゃ壊せる」

「よっ、さすが『純白の破壊者』!」

「葵、お前よくも!」

「いやあ、よく似合ってるッスよ!」


 けらけら笑う葵の脇腹に、透の肘鉄が入った。手加減はされているとは思うが痛そうだ。


「うぐっ……」

「お話、続けてください」

「おう……」


 若干引いた顔をした夏希が、静かに返事をした。軽く息をついて切り替える。


「問題は人数の少なさだな」

「僕たちは11人。相手は100人以上。劣勢ですね」

「これから敵側につくヤツもいるだろうしな」


 敗色濃厚な魔導師側を見て、「白の十一天」に味方する者は確実にいるだろう。そうすれば、ただえさえ人数の少ない第5研究所は勝ち目がなくなってしまう。


「なら奇襲ですかね。あえて二手に分かれるとか……」


 人数が少ないのに、さらに少なくなるような真似は普通ならしないはず。天音はそう考えて提案してみた。


「分けるとして、お前ならどうする?」

「あ、え、ええと……」


 はるかとかなたは離れられない。固有魔導を使うことを考えると恭平と由紀奈は同じチームにいないといけない。由紀奈はあくまで看護師なので、医師である雅が共にいる必要がある。零と夏希、天音は狙われているのでできれば分散させたい。


「む、難しいですね……」

「あぁ。だからいっそ、奇襲してくるだろうっつう相手の考えの裏をかいて、正面突破する」

「正面突破!?」

「んで、そっからは各自戦闘だ。作戦らしい作戦とは言えねぇが、この人数じゃできるコトも少ねぇからな」

「なら、夏希が防御魔導を破壊後、順に乗り込みましょう。僕は殿を務めます」

「だな。ひとまず、魔導考古学省がどう動くか見ようぜ。それまで仮眠とっとけ。万全の状態で戦えるようにしとけよ」


 そう言うと、夏希は立ち上がった。つられて、全員が立つ。


「こういうとき言うのはやっぱあれッスよね?」

「そうですね」


 葵と透が笑い、皆が頷く。そのまま夏希以外の全員が胸に手を当てて一礼し、あの台詞を口にする。


「女王陛下の仰せのままに!」


 ぴったりと揃った声が、食堂に響いた。


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