同日、「白の十一天」
「会場の皆さま、ごきげんよう。私は『白の十一天』のリーダー、西沢一花と申します」
にっこりと微笑む一花だが、その瞳は笑っていない。隠しきれない殺意が漂っていた。
「残念ですが、皆さまとはここでお別れです」
彼女がひらりと手を振ると、背後の構成員たちが武器を構えた。一花の左隣にいた者が、真っ先に銃を撃つ。
銃弾はまっすぐ飛び、捕らえられた未来に向かった。しかし、零の防御魔導により弾かれる。
「え、一花様……?」
未来が目を見開いた。何よりも信じ、崇めていた一花が自分を殺そうとしたことを信じられないようだった。
「どうして、私はっ……」
「頑張ったことは褒めてあげる。けど、失敗したからにはきちんと償ってもらわないとね。大丈夫、痛くないように殺してあげるわ」
やっちゃって。
一花の声で、構成員たちが動き出した。
「何ぼさっとしてんだ! こっちも動くぞ!」
素の夏希の声が会場に響き渡る。目の前の光景に驚いていた魔導師たちだが、流石国立研究所の研究員というべきか、すぐさま術を発動させ始めた。
「おらぁ!」
雄々しい叫び声と共に、強化された夏希の右足が「白の十一天」を蹴り飛ばす。零は非戦闘員を守りつつ、視線は一花に向けられており、対話の機会を探していた。
「由紀奈サン、後はよろしくです」
「はいっ!」
固有魔導を解放した恭平が、縦横無尽に刀を振るう。完全にリミッターを解除された恭平は、銃弾すら斬り裂いた。
「大爆発、行くッスよお!」
「了解、班長!」
透によって出力の上げられた葵の爆発の術が「白の十一天」を襲う。味方には被害が出ないようにしっかりと考えられており、こちらには破片すら飛んでこなかった。
「2人なら大丈夫」
「ね」
はるか、かなたの放つ銃弾が、麻酔銃のように敵を眠らせていく。かなたは幻影とは言え自身が天音を撃ったことに苛立ち、相手に容赦なく銃弾を浴びせていた。
「そちらは任せたぞ!」
「う、が、頑張ります!」
姿を消して忍び寄る奇襲作戦で敵を倒していく和馬が、どこかで応えた。雅は戦闘で傷ついた魔導師の治療で忙しい。
皮肉にも、襲撃を受けたことがある第5研究所は戦闘慣れしていた。だが、他の研究所はそこまででもなく、戦況は芳しくない。
「もう辛いでしょう、やめたいでしょう? 伊藤天音と清水夏希を差し出せば、今日はこのまま帰りますよ?」
一花はそう言うと、第5研究所以外の魔導師が夏希を見た。全員、これ以上戦いたくないのだ。
「……あたしだけならまだしも、天音まで巻き込むんならその条件はのまねぇよ」
「なら、その男の前で死んでもらうしかないわ。愛した女が殺されて、自分も死んでいく。なんて惨めなんでしょうね」
「お前にあたしが殺せるとでも?」
「この状況じゃ無理ね。だからこうするわ」
「……どうするつもり……ってお前、まさか!」
パチン。
一花が指を鳴らした瞬間飛び出してきたのは、輝夜以外の第1から第4までの研究所の所長と副所長だ。
「決まってるでしょう? 増援を呼ぶのよ」
警備にあたっていたはずの魔導考古学省の役人たちも、「白の十一天」側に立つ。その人数は、100人は超えているだろう。彼らこそが、虎太郎の言っていた上層部の人間たちだった。強すぎる魔導師となった清水夫妻を狙い、この場で殺すつもりなのだ。
「さあ、これでもまだ戦うつもり?」
あっという間に敵の数の方が多くなり、ほとんどの魔導師が戦意を喪失してしまっていた。その目は夏希に向けられ、犠牲になってくれと言わんばかりだ。
「皆の役に立つときが来たぞ、夏希」
「こんのクソジジイ……気安く名前で呼ぶんじゃねぇよ」
「零と共に死ね。伊藤天音とやらも差し出せ。そして皆を守れ。それが使命だ。お前たち、さっさと殺せ」
「くっ……」
魔導考古学省大臣の一声で、周囲の魔導師たちが「白の十一天」ではなく夏希に指を突き付け始めた。ある者は涙を流し、ある者は震える手で魔導文字を書いている。
「おやめください!」
「破壊の星の子は……なくてはならない存在です……」
真子と輝夜が必死に訴える。だが、夏希を攻撃しようとする手は止まらない。
「やめろよ!」
「今までの恩を忘れたか! 愚か者どもめ!」
「や、やめてください……っ!」
「そんなことしたら許さない」
「絶対に」
「お前らも爆破するッスよ!」
「今回ばかりは止めませんよ、班長!」
「俺だって……怒るときは怒りますよ!」
第5研究所のメンバーが叫ぶ。全員、武器や拳を構えた臨戦態勢だ。
「……僕が、そんなことを許すとでも?」
黒い魔力が溢れ出す。魔力量に耐えきれなくなった会場の壁にヒビが入っていった。
一触即発。まさにそんなとき、上空から何かが降って来た。
「間に、合ったっ!」
「お前、どうして……」
夏希が信じられないという風に呟く。彼女の目の前には、ローブを風になびかせた天音が立っていた。
「私こそが本物の伊藤天音です! し、死にたい奴からかかってこい!」
震えながらも宣言した天音は、杖を抜いて一花に突き付けていた。
「隠れてろって言っただろうが!」
「嫌です! 私だけ何もせず、皆が傷ついていくのを見るなんて! そんな命令、従いませんよ! 私も魔導師です、戦います!」
「……ったく、頑固なヤツだな」
天音を守るように、夏希が1歩前へ出た。
「背中は任せたぞ」
「はい!」
反撃、開始。




