表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】国立第5魔導研究所の研究日誌  作者: 九条美香
新人魔導師、発表会に参加する
125/141

9月14日、発表3日目

 そうして迎えた3日目。天音は会場内を1人歩いていた。開始までまだ時間がある。前方の席を取ろうとしていたとき、視界に長く黒い何かが過った。


「十二単……?」


 長い裾と黒髪を翻しながら、1人の女性がこちらへやって来た。その容姿に見覚えがある。確か、講評役として座っていた女性だ。あんな魔導衣を着ていたんだ、と小さく呟いた。


「……未知なる星の子よ」

「はい? わ、私でしょうか」


 不思議な呼び方をされた。思わず身構えてしまう。この人、変人の匂いがする!

 第5研究所で鍛え上げられた天音の直感がそう言っていた。


「輝夜」

「ああ……破壊の星の子……」

「お前がそんな風に呼ぶからあたしに変な二つ名がついたんだ」


 溜息を吐きながら、天音と女性の間に立ったのは夏希だった。猫をかぶっていない、普段どおりの口調で話している。


「コイツが『星視の輝夜』。第2研究所の副所長。輝夜、ウチの研究員を怖がらせるな。ただえさえ、お前何言ってんのかよくわかんねぇんだから」

「視たことのない星の並び……」

「初めまして、だと」


 輝夜の言葉を訳す夏希。同じ言葉を使っているはずなのに会話が成立しない。夏希や葵が言っていたのはそういうことか、と納得した。これは説明のしようがない。


「……再生の星の子」

「は?」


 今のは夏希でもよくわからなかったらしい。首を傾げて考え込んでいる。


「生まれ行く……再び、この世に現れる……」

「っ!?」


 天音の固有魔導について語っているように思えたのは気のせいか。いや、そうではないようだ。夏希は表情こそ変わっていないものの、やや体に力が入っているように見えた。


「破壊の星の子よ、どうか……」


 輝夜が夏希の手を取って、何かを言いかけた。その時である。


「副所長」


 聞き慣れない声がした。輝夜がゆっくりと顔を上げる。今のは夏希ではなく、彼女にかけられた声だった。


「所長がお呼びです」


 教本に載っていたのと同じ魔導衣を身に纏った、気の強そうな顔の女性が立っていた。夏希と天音をちらりと見る。が、会釈すらしない。仮にも他の研究所の副所長がいると言うのに、その態度はいかがなものかと天音は眉をひそめた。


「……しかし」

「そんな弱小研究所の副所長と新人を相手にするだけ、時間の無駄です」

「ひどーい!」


 一瞬で猫をかぶった夏希が、口元に拳を当て、上目遣いをしながら言った。変わり身の早さに舌を巻く。


「行きましょう、副所長」

「……では、また」


 強引に腕を引く部下に連れられて、輝夜は去っていった。


「なんですか、あれ。感じ悪いです」

「……そうだな」


 夏希も苛立っているのか、拳を握ったままだった。力は入っていないので、少し気分を害した程度のようだ。


「天音、今日はどうする?」

「……その。人を探すために、発表を全部聞いてみようと思っています」

「そうか」


 低い声で応じると、彼女は周囲を見渡した。人が集まりだしている。口角を上げて可愛らしい表情を作り、


「あたしあっちにいるから。何かあったら教えてね」


 同じ人物の声とは思えないほどの甘く高い声を出して、席に向かって行った。


「天音ちゃん!」

「由紀奈ちゃん。あれ、武村さんは?」

「先生は占術に興味はないって行っちゃった」

「第2研究所は多いもんね」


 リストを眺め、天音は頷いた。第2研究所は陰陽寮のあった旧都に位置する研究所なだけあって、いわゆる陰陽師の使う術のような魔導研究がほとんどだ。


「由紀奈ちゃんは興味あるの?」

「うーん、実はあんまり。天音ちゃんが入っていくのが見えたからついてきちゃった」

「まあ、興味を持つきっかけになるかもしれないし……聞いてみようか」

「うん」


 第2研究所、総数9名の発表。内8名が本日中、最後の1人は明日にまわされる。その中に裏切り者がいるのだろうか。


 楽しそうにしている由紀奈とは異なり、天音は不安でいっぱいだった。もし、誰も裏切っていなかったら……すなわち美織が裏切り者だということだ。彼女を信じている夏希は、酷く悲しむに違いない。


「それでは、第2研究所の発表を始めます。まずは、『古典文学と魔導文字』について……」


 発表を聞いている間、天音はメモをとりながらも注意深く発表者を見つめていた。最初の人物は占術以外をテーマに選んでいる。対象から外していいだろう。


 2番目、3番目も占術というよりは陰陽師についての発表だった。4番目、『魔法使いと陰陽師――文字と詠唱――』を発表したのは、先ほど輝夜を呼びに来た女性で、堂々とした態度で話していた。わかりやすい発表だと感じたが、夏希はあまりお気に召さなかったらしい。あまりメモをとっていなかった。最終日の講評に差し障るのではないかと心配してしまった。


「続きまして、『占術魔導における道具――西洋との比較――』に移ります」


 壇上に現れた女性を、天音はじっと見つめた。彼女が裏切った占術魔導の使い手の可能性は高い。リストによれば、最初と4番目の女性、そして彼女以外全て男性だからだ。美織を信じるならば、犯人は女性のはず。天音はメモをとるのを控えめにして、じっと発表者を見つめた。


 その様子を、どこからか見つめる2つの目があったことを、天音は気づいていなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ