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【完結】国立第5魔導研究所の研究日誌  作者: 九条美香
新人魔導師、配属される
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4月2日、5時21分

 やけに早く目覚めてしまった。

 天音は起床予定から1時間以上前の時刻を示す文字盤を見て、もうひと眠りするか悩んでいた。


 朝食は7時から。そう聞いているので、早く起きたところでどうしようもない。


 しかし、再びベッドに横になっても、眠気は訪れなかった。

 昔から、遅刻が怖くて何かある日は予定より早く目覚めてしまう。そして、二度寝もなかなかできない。


(水、飲もう……)


 天音は諦めて身支度をする。食事ができていなくても、飲み物を飲むくらいはできるだろう。

 幸いにも、この部屋には個人のシャワールームがついており、洗面台なども備えられていた。外に出てもおかしくないように支度をする。


 スーツに袖を通す。これがいつか第5研究所の魔導衣に変わることはあるのだろうか。そんなことを考えた。


(いや、それはないな……)


 流石に一月以上ここに残ることはないだろう。

 緩く首を振って、天音は部屋を後にした。










 「家」はすでにカーテンが開けられていて、朝の光が差し込んでいた。


「あ……お、おはようございます。早いですね」


 食堂には既に和馬の姿があった。魔力の匂いで気づいていたのだろう。食堂に入ってすぐに声をかけられた。


「おはようございます。すみません、何か飲み物を頂いても?」

「あ、そっちの冷蔵庫の中に入ってる、名前の書いてないやつは大丈夫です。お、お好きにどうぞ……」


 一言断って冷蔵庫を開けると、オレンジジュースと水を見つけた。それ以外の飲み物には、まだ天音の知らない人物のものと思われる名前が書かれている。大量のエナジードリンクは、見なかったことにした。


「い、伊藤さんは朝強いタイプですか……?」

「いえ、どちらかというと苦手です。ただ、まだ緊張しているようで、早く起きてしまいました」

「だ、大丈夫ですよ、ここの人たち大抵朝弱いんで……あと1時間は誰も来ないんじゃないかと……」


 食堂の時計を見ながら、和馬はそう言った。相変わらず、話しながらも手が止まることはなく、手際よく料理を作っている。


「今日の朝食ですか?」

「あ、いえ、これは徹夜組への差し入れです。さっき、技術班の方が区切りがついたと言っていたので……」


 ならば、今日の研修は技術班だろうか。あの奇声の持ち主ではないことを願いながら、さりげなく探りを入れてみることにした。


「技術班の方は、どんな方ですか?」

「え、あ、うーん……ちょっと待ってくださいね、その、なんと言ったらいいのか……」


 言い淀む和馬を見て、嫌な予感がした。まさかあの笑い声は技術班から聞こえていたのだろうか。まともに会話ができるか怪しくなってきた。


「……うん、そうですね、あれです! 良くも悪くもプロフェッショナル!」

「良くも悪くも」

「だ、大丈夫です、ちゃんとストッパーがついてますから!」 

「ストッパーがついてないと駄目なんですか!?」


 笑い声の主は技術班の人物に確定した気がする。昨日の説明では技術班は2名、と言うことは片方が奇声の主、もう片方がストッパーだろう。ストッパーが優秀であることを祈る。


「す、すごい人ですよ。役に立つもの、たくさん作ってくれて……魔導衣も、俺に合うものを考えてくれたんです」

「コックコートのようですよね」

「見た目もそうですけど……俺、魔導構築値が他より低めで。それを補えるようにって、特殊な魔導繊維を使ってるんですって」

「どのような素材を使われているんでしょうか?」

「俺もそこまでは。さすがに、そこは専門知識が必要なので……」


 魔導衣や魔導師の使う道具についての製造方法は、教本にも載っていなかった。恐らく、漏洩を恐れてそこまで詳しく書くことができなかったのだろう。


 奇声の主を恐れつつも、技術班について興味がわいてきた。

 一体、どのような人物なのだろうか。どんな研究をしているのだろうか。

 この研究所への関心が高まってきた。


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