同日、男子会
天音とは別のトレーニングルームに引きずりこまれた恭平は、先日と同じように他の男性研究員に囲まれていた。天音と違って不幸だったのは、こちら側には誰1人止めてくれる人物がいなかったという点である。恭平は年上の3人に囲まれ、冷や汗をかきながら立ち尽くしていた。
「ゲームセンターとカラオケって……普段の休みの日と変わらないんじゃ……」
和馬がやんわりと選択を間違えたことを伝える。
「服装も褒めなかった? やる気あります?」
既婚者の零が、バッサリと切り捨てる。
「なんでその服で行った?」
透があり得ないという表情で尋問する。
状況はまさに四面楚歌、恭平の味方はどこにもいなかった。仕方がないので1つずつ質問に答えていく。
「天音サンが、行ってみたいって言ったから……」
「天音ちゃんはそれで楽しめたの?」
「ぬいぐるみ取れたときは嬉しそうだった……」
「それ以外のときは?」
「嬉しすぎて覚えてない……」
「うーん……」
和馬はどうしたものかと首を捻った。天音が楽しめていたのならそれでいいのだが、まさか恭平が舞い上がりすぎて覚えていないとは。初々しいなあ、と和馬はさほど年の変わらぬ彼を見つめた。
「それで? どうして服装も褒めなかったんです? 化粧もして、普段より着飾っていましたよ」
「か、可愛くって……びっくりして……て、照れて、言えなかった……」
「わからないでもないですけどね」
どうやら零にもそんな時期があったらしい。肩をすくめて、溜息を吐いている。
「で、その服は」
「1番気に入ってるヤツ……」
「ほぼ普段着だろ!」
「あ、あんまり気合入ってても変かなって……」
「天音さんはしっかりデートっぽい服着てただろうが!」
「え、や、やっぱり? 意識してくれてた?」
「いえ、あれを選んだのは由紀奈さんらしいですが」
「ダメだあ!」
「諦めるのはまだ早いよ、だ、大丈夫!」
和馬がフォローしてくれるが、正直、何の根拠もない。
「まず反省点挙げていこう。場所、服装、後次は服装を褒める」
「ほぼ全部では?」
「所長、恭平くんを虐めないでください」
「そもそも次ってある?」
「透くんも虐めないで」
流石に哀れに思ったのか、和馬は恭平側に立ち、2人から彼を守るように両手を広げた。肝心の恭平は今床に座り込んでいる。心が傷ついて力が抜けたようだ。
「次があると仮定して、何をすべきか考えよう。ね?」
「和馬、それは慰めているようで傷つけていますよ」
仮定して、という一言で立ち上がりかけていた恭平は崩れ落ちた。そこはせめて次に向けて、などと言った言葉にしてほしかった。
「まずは場所を決めよう」
「天音さんの好きそうなところが1番でしょう」
「……職場?」
透の言ったことを誰も否定できなかった。天音=ワーカホリックの式が出来上がってしまっている。
「は、博物館とか美術館とか好きそうじゃない? ね、透くん」
「ああ、それは確かに」
「恭平、メモしておきなさい」
床に倒れ込みながらも、恭平は自室からメモとペンを呼び寄せて書きとり始めた。意外なところで真面目な男である。
「恭平の服装はどうします?」
「僕がどうにかします」
衣装作成を仕事とするものの誇りにかけて、恭平にいい服を着せてやろうと透は考えていた。趣味に走った魔導衣のせいで忘れられがちだが、透は男女問わず衣装を作れる人物だ。
「次、服装を褒める!」
「今夏希から伝言が来ましたが、女性陣はかなり盛り上がったようですよ。天音さんに新しい服や化粧品を買おうと張り切っているとか。恭平、今のうちに覚悟を決めておきなさい」
「イメージトレーニングでもしておけば?」
揶揄うことがメインのせいか、透のアドバイスが雑になっていった。元から恭平の味方ではなかったとも言える。
「いや、どうやって? 何もない空間にひたすら誉め言葉言うの?」
「幻像魔導とかでどうにか」
「虚しい!」
好きな人の幻像を作り出して話しかけるだなんて悲しすぎる。コイツにアドバイスを求めるのは無駄だと判断した恭平は、既婚者の零に視線を向けた。彼ならデートくらいしたことがあるはずだ。
「慣れですよ。そのうち言えるようになってきます」
「慣れるほど出掛けられるとは思えないんだけど!?」
「そうですね……思ったら口に出るものです」
「出なかったから今悩んでるって話!」
零も駄目だ。最後、和馬に救いを求めて見つめる。彼は困ったように頬を掻きながら、それでも懸命に考えて答えてくれた。
「え……よくわかんないけど、素直に伝えるのじゃ駄目かな……照れちゃっても、上手く言えなくても、恭平くんの言葉でちゃんと伝えるのが大事だと思うよ。なんて、俺も人にアドバイスできるような立場じゃないんだけどね」
「いや、1番よかった。ありがとう」
今までで1番アドバイスらしいアドバイスと言える。そうか、照れていてもいいのか。少し安心した。
「まあこのアドバイスも次がないと意味がないんだけどね」
「和馬ー! お前よくも!」
最後の最後で落としていった和馬を、恭平は暫く許せそうになかった。




