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【完結】国立第5魔導研究所の研究日誌  作者: 九条美香
新人魔導師、3回目の発掘調査に参加する
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7月3日、発表内容を決める日

「はい、これが僕の論文です」


 透が渡してきたのは、『現代魔導』のバックナンバーではなく、大学のレポートのように印刷され、ホチキスで止められたものだった。


「天音さんは書き込みとかしたいタイプらしいので、副所長に頼んでコピーしてもらいました」

「わざわざすみません……」

「違いますよね?」

「あ、えっと。ありがとうございます……」

「よろしい」


 場所は昨日と同じ書斎。机と椅子のセットが2つ。天音と透は向かい合うように座っていた。学校の班活動のときのように、机はぴったりとつけられている。


「まずは範囲を決めましょう。論文を読むのは、その後でも大丈夫ですから」

「そうですね」

「中世だと恭平くんが詳しいかもしれないです」

「ああ、魔女狩りですか?」

「はい」


 2つの机にまたがるように、1枚の白い紙が置かれていた。これからアイディアが書き込まれていく白紙だ。


「2000年くらい遡れば、魔法も奇跡として扱われてましたけど……それだと、『魔法使い』というより『巫女』ですよね」

「そうですね……私がしたいこととは別かと」

「となると、やっぱり中世ですかね」

「ですね……被りって言われますか?」

「切り口が違うので大丈夫じゃないですか? 大体、そのころの魔法使い、というか魔女のイメージが今の魔法使いのイメージですからね。避ける方がおかしいかもしれないです」


 透が中世、と書いて丸で囲った。魔女、魔法使いの文字が下に付け足される。


「魔女と言いつつ、男の人もいますよね」

「アニメとかだと女の子が多くないですか?」

「それは確かに思いました。私は自分を投影しやすくてよかったです」

「女性の衣装の方が作ってて楽しいですしね!」


 それはまったく関係ない。天音は心の中でツッコんだ。やはりこの人は衣装が絡むとおかしくなる。腕は確かなので組めるのは心強いが。


「じゃあ、今の天音さんの魔導衣みたいな衣装を1着作りましょう。それと、その時代の普通の服も。これは魔導研究に関係のない歴史や民俗学の本でわかりますよ」

「それに少し魔力を込めてもらえますか? 装飾品は……どうしましょう」

「形さえ決めてもらえば、副所長や所長が金属加工の術でどうにかしてくれますよ」


 そういえば、夏希はデザインは苦手だが、天音の学校のジャージを再現して作ってくれた。見本があれば作れるのか。念のためメモする。形を決めておかなければ。


「金属はあるんですか?」

「班長の失敗作を溶かしましょう。破片もたくさんあります」

「いいんですか?」

「僕が毎回片付けてるんですよ。手間賃です」


 ほんっとに、あの人はだらしなくて適当で……と葵への愚痴が始まってしまった。そう言いつつも、いつも彼が葵の世話を積極的に焼いているのを、天音は知っていた。


「僕がここに来るまでどうやって生きてきてたんだか……」

「確かにそれは不思議ですね」


 かなたは面倒見のいい方だが、積極的に片付けるタイプでもない。零が世話を焼くのは夏希限定だ。雅は「他人に迷惑をかけなければそれでいい」スタンスなので、ラボや葵の私室が散らかっていても何も言わないだろう。恐らく、散らかったまま過ごしていたはずだ。


「……話が逸れましたね」


 軽く咳払いをして、透は再び発表内容を考え始めた。


「中世の魔女狩りの後、科学技術の発展と共に魔法使いは表舞台から消えていきます。それは口頭で説明しましょう」

「ですね。その後……うーん、12年以上前の創作物から、魔法使いの服装を何個かピックアップして並べるのはどうでしょうか。私もその例として立ちます。発表会は正装の魔導衣でいいんですよね?」


 魔法使いのイメージそのものの魔導衣を着ている天音は、自分すら発表に利用しようとしていた。


「そうですね、皆魔導衣です。色んなデザインが見れますよ……ふふっ」


 楽しみだと笑い出す透に不穏なものを感じ、天音は慌てて話を変えた。


「い、衣装って何着くらい作れそうですかね!?」


 上手くいったようで、透は笑うのをやめて真面目に考えだした。術を使えば……人形サイズなら……などとブツブツ呟き、


「凝り具合にもよりますが、4着か5着かと。僕も発表内容について知っておかなくてはいけないんで」

「すごいです!」


 そんなに作れるとは思わなかった。裁縫を苦手とする天音は、縫製の術とも相性が悪く、未だに成功しない。しても人と同じスピードでぐにゃぐにゃに曲がった縫い目を作っていくだけである。透の術の正確で速い動きは真似できそうもない。


「じゃあ、あとは天音さんは僕の論文を読んで服飾について学んでみてください。質問があったら呼んでくださいね。僕は漫画やアニメを探してみます。雅さんがそういうアニメが好きなので聞いてきます」

「はい、ありがとうございます。服飾については本当に初心者ですが、頑張ってみます」

「ふふ、頑張ってみてください。そしてあわよくば裁縫に興味を持ってください。一緒にすっごい凝った衣装作ってみましょう」


 欲望が滲み出た言葉を残して、透は去っていった。


「……あの人は真面な方、あの人は真面な方……」


 暗示をかけるように天音は1人呟く。論文の表紙を捲って、勉強に集中しようと大きく息を吸った。


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