表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】国立第5魔導研究所の研究日誌  作者: 九条美香
新人魔導師、3回目の発掘調査に参加する
105/141

同日、占い師が帰った時

 天音はまだ美織を信じきれずにいた。1人減ったテーブルの上には、まだ湯気の立っているカップが並んでいる。まだ熱いそれに息を吹きかけて冷まし、夏希はカップを傾けていた。


「副所長、あの予言を信じるんですか?」

「あぁ」


 悩むことなく夏希ははっきりと口にする。信じない、という選択肢は最初からないようだ。


「私は……まだ信じられません」


 今最も怪しいのは美織だ。それは、天音だけでなく、虎太郎も同じ意見だろう。それなのに、夏希は彼女を少しも疑うことはなかった。思慮深い夏希のすることとは思えない。そう考えていると、夏希はニヤリと笑った。


「なんだ、嫉妬か?」

「え? 嫉妬、ですか? どういう意味ですか?」


 予想外の言葉に、思わず聞き返す。嫉妬、と彼女は言った。そう思う理由がさっぱりわからない。


「自分より美織の方が信じられてるみたいで悔しいんだろ」

「なっ……」


 否定しきれない自分がいた。顔を赤くする天音を、零と夏希が愉快そうに見ている。


「美織を信じるのは、さっき言った理由もあるが……そうだな、強いて言うなら、アイツは団体行動だのルールだのは嫌いなタイプだが、魔導は大好きな人間だからだ。ここじゃやってけないってなったときも、他の仕事は選ばずに、占術魔導を使って占い師になるコトを決めた。魔導を嫌ってたり、あたしたちを殺そうとしたりしてるんならあり得ない話だろ?」

「それはそうですけど……だからと言って絶対的に信じられるわけではないですし……」


 それでも完全に信じることは難しい。自分が疑い深いだけなのか、はたまたただの嫉妬で信じたくないだけなのか。そのどちらでもあるような気がする。


「安心しろよ。あたしは天音のコトも信じてる」

「そっ、そう言えば高木さんのことを信じるわけではないです!」


 ちょっと、いや本音を言えばだいぶ心が揺れ動いたが、だからと言って意見を変えるつもりはない。


「ならちゃーんと発表会に出て裏切り者がいないか確認しないとなぁ?」

「ぐっ……」


 返す言葉もない。天音は喉の奥に何か詰まったような音を出した。夏希の掌の上で踊らされているような気持ちだ。


「でも……もし高木さんが本当に裏切っていたら、発表会に行くのは無駄になってしまうのでは?」


 研究員たちは喜んでいたものの、本来の目的は美織の疑いを晴らし、真犯人を見つけること。もし美織が犯人だった場合、研究発表会に出席するだけになってしまう。


「少なくとも、ウチがもう弱小とは言えないってのがわかるだろ」

「そうですね。賞金はいただきです。増えた予算で何をしましょうかね」

「わ、私みたいなのが出るのにですか!?」

「大丈夫だろ、お前なら」


 全面的に信頼されているとわかって、胸が熱くなった。と同時に、とてつもない不安に襲われる。


「固有魔導の特訓に語学学習、研究発表会の準備……じ、時間が足りない……」

「いや前2つは休めよ」

「これもワーカホリックに入るんでしょうか?」


 清水夫妻が、理解できないものを見る目をしていた。


「だって、私まだできないことが多すぎるんですよ! 論文も書いたことないですし!」

「まだそこまでじゃなくていいんだよ、新人は皆そうなんだよ」

「プレゼンとか学校で少しやったくらいですよ! せいぜい40人くらいの前で、5分間話すだけでも緊張したのに……全研究所が集まると300人くらいですよね?」

「んー……」


 夏希は宙を見上げ、眉を顰めた。おおよその人数を計算している。


「辞めてく人数もある程度いるしな……」

「でもまあ、それくらいだと考えていただければよいのでは?」

「1学年分くらい……」


 生徒会演説よりはマシ、ということがわかったが、それでも不安なのは変わらない。相手は高校生ではなく、一流の魔導考古学研究員なのだ。


「お前、忘れてないか? あたしらを頼っていいんだ。もちろん、雅や透も。手が空いてたら、他のヤツらだっていい。なんでも1人でやろうとするな。潰れるぞ」

「それは……そうなんですけど……」


 頼る、というのも一種の才能なのではないかと天音は思った。どう声をかけたらいいのか、どうお願いしたらいいのか。何も思いついていない状況で頼ってしまったら、相手を困らせてしまうかもしれない。そんな事ばかり考えてしまう。


「ま、まずは自分の発表の大まかな方向を決めていこうぜ。今の『旧ファンタジージャンルにおける魔法及び魔法使いについて』はまだ大きなテーマだ。その中から、今回やりたいコトを決めてみろ。それについて詳しく調べていけばいい」

「やりたいこと……」


 やりたいことはある。けれど、それを切り出して形にするというのが、どうしても上手くいかない。考えすぎて俯いてしまったとき、自身の魔導衣が視界に入った。


「あ!」

「どうしました?」


 突然声を上げた天音に、零が首を傾げた。


「なんとなく、決まった気がします! すみません、失礼します!」


 ローブの裾をはためかせながら、天音は走り出した。目指すは地下1階、ラボである。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ