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【完結】国立第5魔導研究所の研究日誌  作者: 九条美香
新人魔導師、3回目の発掘調査に参加する
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同日、作戦を立てる時

 あまりにもショックな内容に、天音は何も言うことができなかった。夏希はそれを想定していたのか、静かに話し続ける。


「大方、連中はあたしを殺して、それで零を殺そうとしてんだろうな。あたしの方がまだ殺しやすい。んで、あたしが死ねば零も死ぬ。完璧な作戦だと思ってんだろ」

「……そうだ」


 苦しそうに虎太郎が頷いた。まるで、夏希の分まで悲しんでいるようだ。


「んじゃ、もうそっちはわかったから、残りを教えてくれ」

「……襲撃の理由だが、あれは『白の十一天』が魔導破壊のみに重点を置いていると勘違いさせるものだったらしい。いや、正確には末端の構成員は本当にそう思っているのだろうな。そして、捕まっても問題のない者だけに実行させ、捕らえさせた。魔導考古学省が疑われないために」

「ふぅん」

「そして、これが本当の目的だが……」


 ちらり、と。虎太郎の視線が天音に向けられた。話すべきか迷っている、そんな目だ。


「奴等は伊藤天音魔導解析師の捕縛を望んでいる」

「……固有魔導までバレてんのか」

「ああ。そして、『白の十一天』は、それを行うための魔導考古学省の手足ということだな。第1回の発掘調査の日に失敗してしまったから、今度はそちらにやらせようということだ。彼女たちには阿部由紀奈魔導解読師誘拐の前科がある。誰かを攫ってもおかしくない。魔導考古学省は伊藤さんを攫って、第5研究所の研究員を人質にとり、操ろうと考えたようだ」


 第1回発掘調査の日、「白の十一天」と関わっているのではないかと疑われたが、真子と夏希によって天音は救われた。本来の魔導考古学省の計画なら、あの時点で捕まっていた、ということだろう。


「けど、あの時は、天音には怪しまれる理由はあったが、本当にそれが固有魔導かどうかわかってなかったはずだ。もし外れてたらどうするつもりだったんだ?」


 まさか、異なる固有魔導だった場合は殺されてしまっていたのだろうか。天音は自分を抱きしめるように腕をかかえて震えた。話の内容が怖すぎる。


「……そこで、3つ目の話だ。裏切り者がいる、私はそう言ったね」

「あぁ」

「私の部下は……『予言があった』と言った。魔法を復活させる固有魔導を持つ者が現れるのだと、そう予言されたらしい。ここまで言えば……きっと、君は全てを理解するだろうね」

「ふざけんな! 美織が裏切ってるって言うのかよ!」


 夏希がテーブルを叩いて身を乗り出した。先程まで冷静だった人物とは思えないほどに怒り狂っている。


「アイツのワケがない!」

「だが、その証拠もない。私は先程彼女の店に行ったんだが、もぬけの殻だった。争った形跡もない。魔導考古学省は彼女を『白の十一天』に関与したとして指名手配することを決めた」

「いくらなんでも強引すぎる! 占術なら他の魔導師もできるだろ!?」

「だが、こうは思わないか? 高木美織は本当は『白の十一天』で、君たちを占うことで正確な情報を得ていた、と……」

「お前まで疑ってんのか……?」

「他に疑わしい者がいない」


 その可能性は高いと天音も思っていた。1度しか見ていないが、あの実力さえあれば天音の固有魔導の発現を当てていてもおかしくない。第5研究所にも近い位置にいる。副所長である夏希からの信頼も厚い。情報を手に入れる、最高の環境にあると言える。


「占術を専門に研究してる魔導師は? 第2の連中は調べたのか?」

「流石にこの短期間で旧都までは行けない」

「調べもしないで美織を指名手配したのか!? それでも役人かよ!」

「君が怒る気持ちもある。だからこそ、私はこうして来たんだ」

「はぁ!?」


 今にも虎太郎に殴り掛かりそうな夏希を止めたのは零だった。まだ辛そうではあるが、落ち着きを取り戻したようだ。


「落ち着いて、夏希。話を聞いて」

「零……」


 今まで、夏希が代わりに落ち着いて話を聞いていたように、今度は零がそうする番のようだ。虎太郎を睨みつけている彼女に代わって、零が話の続きを促した。


「何故、ここに来たと?」

「頼みたいことがある」

「僕たちが従うとでも? 生憎、辛くて悲しくて動けそうにないですね」

「いや、君たちはやるはずだ」


 虎太郎は胸元から1枚の紙を取り出した。「第11回魔導研究発表会のお知らせ」と書かれている。


「全ての研究所の人間が集まるこの日、裏切り者を探すのに絶好の機会だと思わないか?」

「これに参加しろと?」

「今までは規定人数の10人に満たなかったが、今回は参加できるだろう?」

「美織を信じるなら、ここで別の裏切り者を見つけてこいってコトか?」


 普段よりも低く、威嚇するような声で夏希は言った。鋭い目つきは変わらない。


「ああ」

「あの……」


 話を遮ってしまうと分かってはいるが、聞き馴染みのない言葉に、天音は思わず声を上げた。


「研究発表会ってなんですか……?」

「年に1度、9月に行われる、全研究所が参加する発表会だよ。ま、調査師は参加できねぇんだが」

「じゃ、じゃあ、調査師に裏切り者がいたらわからないんじゃ……」

「調査師レベルで美織並みの占術ができるヤツはいねぇよ」


 あくまで夏希が怒りの感情を向けるのは虎太郎にだけだった。天音が話を遮っても、普段どおりの口調で返してくれる。


「どうだろうか。悪い話ではないと思う」

「……仕方ねぇな。やってやんよ!」


 お知らせの紙を奪い取り、夏希は舌打ちしながらもやると宣言した。その横で、まだ悲しみから立ち直れてはいない零が、小さく頷いていた。


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