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【完結】国立第5魔導研究所の研究日誌  作者: 九条美香
新人魔導師、3回目の発掘調査に参加する
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同日、調査終了の時

 隠し部屋の中の調査は、思っていた以上に順調に進んでいた。どうやらここはかつての住人の研究室だったらしい。保護魔法のかけられた研究日誌が並び、当時の魔導書まで残されていた。普通の日記も残っていて、魔導文字で日々の記録が綴られている。


「大成功ですね、これは」


 和馬が嬉しそうに日記を抱えている。ここに住んでいたのは几帳面な性格の人物だったようで、日々の食事なども書きこんでいたらしい。じっくり読むのが楽しみだと、丁寧に保護魔導をかけ直している。


「これだけの量、どうやって持ち帰るんですか?」


 これだけ重量が増えたら、瞬間移動の術をかけるのも苦労するだろう。それとも、零と夏希なら余裕なのだろうか。


「ああ、出土品が多いときは、先にそれだけ研究所に送るんですよ。その方が楽でしょ?」


 耳を澄ませて調査を続けている恭平が答えた。話しながらも、次々に資料を見つけている。


「出土品を送るのは、魔導解析師以上の人間じゃないとできないんです。壊さないように、慎重に送るには繊細な魔力操作が必要だから。ってワケで、天音サンも手伝ってくださいね」

「う……頑張ります……」

「よーし、たくさん探すぞー」


 揶揄うように言って、恭平は部屋の角まで探し始めた。すでに本の山ができているのに、まだ探すのか。運べる自信がなくなってきた。


「こんなに資料があるのはいつぶりかな」

「初めてじゃない?」

「そうかも」

「そうだよ」


 多い多いと思っていたが、研究所としてはこれがあるべき姿なのだった。双子の言葉でようやく思い出した。第5研究所は、資料が異常に少ない。


「……よし! これだけあれば、暫くは皆忙しくなりますよ!」


 最後の資料を集め終わった和馬が、楽しそうに魔導文字を書いている。保護魔導をかけて地上に順番に送っているのだ。今日は襲撃もなく、医療班も手が空いているだろうから、地上ですぐに対応してくれるはずだと、皆次々に術を使っている。


「早く帰りたい」

「資料読みたいね」

「えー、オレはまず風呂に入りたい」

「それはそう」

「汗かいた」


 ある程度の温度調節もしてくれる魔導衣を着ているとは言え、7月の太陽は容赦なく地上を照らしていた。地下にいるからまだいいが、それでも動けばかなり暑い。


「今日は副所長の誕生日と発掘成功のお祝いだからご馳走ですよ」

「え、何作るの?」

「秘密」


 ご馳走も気になるが、天音は夏希の誕生日を全力で祝う零が気になって仕方がなかった。一体、何をするんだろう。実は天音も由紀奈とこっそりクラッカーを買っていたりする。


「本日の主役に迷惑はかけられないかー。しょうがない、頑張って移動させますかね」

「そうですね……私も頑張ってみます!」


 天音の頑張りもあり、回収作業は非常にスムーズに終わった。地上に戻って、医療班、技術班と合流する。零たちはまだ何かを話し合っていた。


「お疲れ様ッス」

「こんなにたくさん……本当に、お疲れ様です」


 技術班はある程度修復を済ませ、ジャンルごとに出土品を整理してくれていた。


「石板でパズルするとは思わなかったよ。でも、楽しかったかも」

「わらわをこき使いおって。許さぬぞ……」


 医療班もどうやら手伝わされていたらしい。由紀奈だけではなく、雅も修復作業にあたったようだ。医療魔導以外あまり得意ではない雅は、この場の誰よりも疲れた顔をしている。


「じゃ、運びます」


 恭平がジャンルごとに研究所に移動させ始めた。和馬もそれに倣う。魔導解析師ではあるが、疲れきった雅はぐったりとしていたので、その分もと天音は張り切った。


 全ての出土品を運び終えたころ、零たちが戻って来た。


「お疲れ様です。どうやら大成功のようですね」

「お疲れさん。じゃ、さっさと帰って今日はゆっくり休もうぜ」


 自分の誕生日を忘れているのか、部下を労っているのか。夏希は休めと言ってきた。当然、それで終わるわけがないので、彼女の後ろで零が笑っている。あれが何かを企んでいる顔だ。


「何事もなくて安心したよ。それじゃあ、私たちは魔導考古学省に帰るから」

「時間の無駄だったな」

「おう、ありがとな」


 秋楽の嫌味をスルーして、夏希は手を振った。2人はふわりと飛び上がり、首都の方角へ向かい始めた。


「さて、あたしらも帰るぞ。忘れ物はないな? 特に葵」

「ないッスよ」


 念のため、と周囲を確認して、何も落ちていないことを確かめると、夏希と零は瞬間移動の術を発動させた。来たときと同じ、薔薇の花のような香りがした。


 瞬きをした次の瞬間には、第5研究所に着いていた。こうした、研究所から遺跡への移動などの場合、飛行でも瞬間移動でも、事前にルートや方法をしっかり魔導考古学省へ提出しなくてはならないことになっている。そして、夏希が申請したのは、研究所の門の前からのルートだった。少しでも魔力の消耗を減らすためだ。そして、万が一、研究所が襲撃されていた場合に、すぐ対処できるようにでもある。


 すると、門の前に、何やら人影のようなものが見えた。

 配属初日に、夏希が飛び越えていた門に、誰かが寄りかかっていた。


「やあ、思っていたより時間がかかっていたね。調査は順調だったようだ」


 第1回発掘調査後の尋問の場にいた魔導師、三浦虎太郎が、そこに立っていた。


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