顔じゃない
台本形式です。
「」内は会話
『』内は心の声と思ってください。
顔じゃない
角界(大相撲)の隠語
実力不足や地位が足りないなど、文不相応な様子。また、それによる非礼や無礼を咎めるさいにも使われる。
「私は今、広田山部屋へと来ております。今日はここで来場所から新小結へと昇進の決まりました往輝関のインタビューをしたいと思います」
『あー、緊張する初レポートだし、失敗しないようにしなきゃ』
「というわけで、往輝関、今日はよろしくお願いします」
『でも、ほんっとにイケメンだわー。体も脂肪とか全然なくて、全部筋肉って感じだし、ファッション誌で紙面を飾った写真より、実物のがイケメンってヤバいわー』
「はい、よろしくお願いします」
『流石は人気の局アナだなー。すっげー美人。テレビで見てるより綺麗とか、緊張してきた。下手こかないようにしないと』
「さて、往輝関、まずは小結昇進、おめでとうございます。昇進に向けて、今のお気持ちをお聞かせください」
『まずは無難にお祝いして、当たり障りない質問と』
「はい、ここ3場所は調子も良くて、連続で二桁勝利も出来ましたから、昇進も視野に入ってはいたんですが、とはいえ、ここ3場所は上位陣の怪我の休場や不調が重なって、平幕の力士が活躍できた部分もありましたし、正直言うと、三役をはるには自分はまだまだ顔じゃないかなと」
『横綱不在の場所で大関陣も怪我の後遺症で不調だった場所だからなー。正直、実力より運って言われてるのも仕方ないし、元々、人気先行って言われてるし、悔しいけど謙虚にしてないと、また叩かれるしな』
『顔じゃない。顔じゃないってどういう意味かしら、あっ、自分は顔「だけ」じゃないぞって意味かな。確かにイケメン力士でCM出演も多いから、実力より人気で番付にいるって良く批判されてるみたいだし、この昇進は顔じゃない、実力だってことね』
「なるほど、確かに顔じゃないですね」
『えっ、そんな笑顔で実力不足だって肯定してくるとかある。いやっ、確かに自分で言ったんだけど、そこは記者なら、『いやいや、実力で勝ち取った立派な昇進だと思いますよ』とか持ち上げるもんじゃないの』
『あれ、急に真顔になったと思ったらすっごい不機嫌な顔になったけど、あーイケメンとしては顔も実力も備わってるって言ってほしかったのかな。あれ、すっごいナルシストじゃん。やりづらー』
「あっ、えーっと、往輝関はCM出演も多いだけあって、本当にイケメンですよねー」
『うわっ、とってつけたような顔と声でイケメンなこと褒めて来たよ。でも、それじゃ『お前はやっぱり顔だけだな、実力はねーよ』って言ってんじゃん』
「……ありがとうございます」
『うわー、なに、すっごい不機嫌そうな顔でありがとうって言ってるけど、なんなん、私、何かの地雷踏んだの。どーすりゃいいの、こんなナルシスト』
「往輝関は来場所に向けて出稽古にも行かれる予定のようですが、横綱との稽古も考えておいでですか」
『取り敢えずは緊急避難。まだ尺も足りないし、もう少し繋がないと』
『俺が出稽古にいく先は大関しかいない、和田部屋なんだが、なに、架空の横綱と稽古してろってか。お前は顔じゃないから、それで十分ってか』
「いや、別に予定はないです」
『なによもー。空気読んでよ。胸を借りたいとか言えば、盛り上るじゃん。なんなのこのナルシスト。勝てないかもしんない横綱とは稽古しないってか』
「それは横綱との稽古は必要ないと言うことでしょうか。すごい自信ですね」
『嫌味かっ、元から予定にないだけだよ。来場所が休場明けの横綱に稽古申し込むとか、空気読めよ、できるわけねーだろ。なんなの、こいつ。あれか、お前なんて休場明けの横綱にすら勝てない顔だけヤローだってか、ふざけやがって』
「いえ、横綱には勝てるなんて、そもそも自分では顔じゃないと一蹴されますよ」
『まーた顔の話、どんだけナルシストなのよ。もう尺も十分だし、切り上げよ』
「そうですか。今日はありがとうございました『ナルシストヤロー』」
「こちらこそありがとうございました『陰険アナ』」
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