表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/9

転移

「不覚っ……」


頼りない焚き火が、手足を鎖で厳重に縛られ下着同然の姿で横たわる女性をゆらゆら照らす。うっすら腹筋の割れた腹が容赦なく踏みつけられ、女性ーーリージュは微かにうめく。


「ウインダムにも同じタイプの奴がいるなんてね、貴女何歳?地元こっちじゃない?」


その足の持ち主ーーガモラン王国の女戦士ユリアはサディステックな笑みを浮かべ徐々に体重を乗せていく。


「黙秘させてもらう」

「これでも?」


ユリアは人差し指をリージュのこめかみに押し付けた。すると皮膚と皮膚の間にスパークが起き、激しい熱と痛みがリージュを襲う。死を覚悟するほどではない、ただ痛みだけを与え続けるこの力……この世界の人間ならば使えて当然の『魔法』が生み出す痛みにリージュは歯を食いしばり耐える


「ま、そっちに期待はしてなかったけど」


ユリアは指を離すと、リージュに覆い被さり先程の魔法で少し焦げたこめかみに舌を這わす。


「やめろっ」


不快な感触に顔を顰め逃げようとするも、鎖で縛られた身体は芋虫のように身悶えるしかない。

リージュも魔法を使えはするのだが、彼女の魔法は普通のそれと違う。例えば使う魔法が炎なら、一般の兵士であれば数メートル先へ遠く飛ばすことが出来て当たり前だが、彼女の場合手から炎が全く離れてくれない。それ故に徒手空拳による戦闘技術を極め、決して出来損ないと侮られぬよう今日まで前線で戦い続けてきた。

触れる距離ならば……当然リージュに勝利し捕虜にしたユリアはそれを理解しており、手足といった魔法が出せる部位が自分に向かぬよう拘束している。


「経験ある?なくてもいいけど」


リージュの胸元を守るさらしにユリアが指を指をかける。瞬間、リージュはその先を理解し涙が溢れた。


「やめろ、殺せ!殺せーっ!」

「元気でよろしい」


ユリアは叫ぶリージュの口に焚き木の欠片を差し込んだ。じんわりと鉄と木の味が口の中に広がる。

もはや自害すらできない、もし魔法が普通に使えれば、この場で身を焼くこともできたのに。これから始まるであろう屈辱と恐怖に震えるリージュは声なき声で叫ぶ。


(殺してくれ!)


その瞬間、脳の奥が焼き切れたような感覚と共にリージュの視界が白く染まった。



~~~~



やがてモヤが晴れるようにリージュの視界が戻っていく。青い空、白い雲、四方を囲む黒いロープ、水着のような格好の女が2人……。


「はぁ!?うわっ!」


思わず出た素っ頓狂な叫びに自分で驚く。さっきまで口に突っ込まれていた木の欠片、それに手足を封じていた鎖まで消えている。


(助けが来た?)


手には赤く痛々しい縛られた跡。あれは夢ではなかった、じゃあ目の前の2人が助けてくれたのか?でもなんであんなハレンチな格好なんだ?

状況整理が追いつかないリージュは周囲を見渡す。黒いロープの外に見慣れぬ格好をした老若男女が数十人、リージュを見て何かを言っている。


「なんだあれ……」

「急に出てきたけどどんな手品だよ」

「新人?」


周りの人々は明らかにリージュを見て困惑している。お前らが何なんだと叫びたい気持ちを堪え、改めて目の前にいた2人の女性に目を戻す。

よく見ると、リージュより一回り大きい女性が自分と同じくらいの女性を担ぎあげ、今にもこちらに放り投げそうな状態で目を丸くしている。


(考えろ自分、見物客、大柄な女、投げ飛ばされそうな女……処刑場か!?)


答えが出ると同時にリージュは手足の感覚を軽く確かめ構えをとる。


(なんか納得いかんが千載一遇のチャンス!)


一歩踏み込み、大柄な女の脇腹にしなるようなミドルキックを叩き込む。


(ま、魔法が……出ない?)


いつもならばキックが当たると同時に相手の骨身を焼き切るような魔法が流れ込むはずだったが、今のリージュの足は一瞬太陽のように光るだけで何も起きない。一度足を戻しもう一度トライするも、足先が光り大柄な女が少し顔をしかめるだけで大きな変化はなかった。


(まずい、あの女に舐められたせいなのか?そんな魔法聞いたこともないぞ)


困惑し動きの止まったリージュの顔面に踏みつけるようなキックが襲いかかる。虚をつかれながらもリージュはその場で自分の身長ほどに跳び上がり、カウンターのキックを大柄な女の顔面に叩き込んだ。大柄な女は少しよろめき、大の字で倒れ込んだ。その光景に周囲の人々がざわめき出す。

そのやや不自然な倒れ方に疑問を持ったリージュはトドメを刺すべく大柄な女の心臓に掌を押し付け力を入れる。


(こちらもダメか……)


足と同様に手も一瞬眩くなるだけで、傷一つつけることができない。


「ワン!ツー!スリー!」

「えっ?」


滑り込むように現れた初老の男が3回床を力強く叩くと、どこからか乱れ打たれた鐘のような音が響き、人々の興奮が最高潮に達していた。


「え?」

「ウィナー、ニューカマー!」

「え?え?」


初老の男は紳士的にリージュの手首を掴むと、周りの人々に向け勝者への惜しみない拍手を求めた。


「え、えぇー!?」



続く

■簡易キャラ紹介

リージュ:ウインダム王国の女戦士。捕虜になり拷問を受ける寸前に何故か現代日本、それも試合中のプロレスリングに転移する。身長165cm。筋肉質。


ユリア:ガモラン王国の女戦士。リージュを上回る強者だが、捕虜にした相手を色んな意味で食べてしまうのが難点。曰く「リージュと同じタイプ」らしい。身長165cm。筋肉質。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ