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5話 転生魔人、千年後の魔人を圧倒する

戦闘描写については、今後良くなっていくよう精進します。


楽しんでいただけたら幸いです。

 戦闘に割り込んだエイジは、翡翠色の魔人に問いかけた。


「なあ、アンタ。なんでこの子の命を狙ってるんだ?」


「答える義理はない。命が惜しければ、そこを退け」


「そう言うわけにもいかなくてな」


 エイジは、翡翠色の魔人が持つ魔剣に目を向けた。


「その細剣――『必穿の魔剣(フルンティング)』だろ?」


 エイジは翡翠色の魔人が持つ魔剣をよく知っていた。『必穿の魔剣(フルンティング)』は前世のエイジが作成した魔剣の一振りだ。エイジの胸には懐かしさが込み上げていた。


 『必穿の魔剣(フルンティング)』は刺突に特化した魔剣だ。長いリーチと軽さを生かした連続攻撃は強力である。使いこなすことができれば、鎧の隙間を縫って致命的な損傷を与えることも可能である。


 一方、ベアトリクスと翡翠色の魔人の胸中は、それぞれ驚愕で一杯だった。


 エイジの言葉を聞き、ベアトリクスは声を上げた。


「『必穿の魔剣(フルンティング)』! 五百年前の動乱期に行方がわからなくなっていたはずです!」




 翡翠色の魔人は警戒心を強く滲ませた声でエイジに問いかけた。彼はこれまでに何度か魔人の姿で作戦行動をしたことがあったが、その魔剣の正体を見破られたことは一度もなかったからだ。


「貴様……。何者だ? それに貴様が持つ魔剣。そのような魔剣は見たことも聞いたこともない」


 二人から驚きと警戒の眼差しを向けられたエイジだったが、その視線を意に介した様子はなかった。


「さて、何者だろうな?」


 はぐらかすエイジに、翡翠色の魔人は細剣の切先を向けた。


「答えぬか。ならば、力づくで聞き出すまでのこと」


「できるものなら」


 直後、翡翠色の魔人は動いた。細剣の切先が神速でエイジに襲いかかった。


 ベアトリクスは思わず叫んだ。


「危ない!」


 しかし、エイジは予測していたように身体を少しずらし、その攻撃をかわした。続けざまに何発もの刺突が繰り出されるが、その全てをエイジは最小限の動作だけで回避していく。


「凄い……」


 ベアトリクスは思わず感嘆の声を漏らした。


 それはエイジが『必穿の魔剣(フルンティング)』を知り尽くしているからこそできた芸当だった。


 翡翠色の魔人は猛攻を止めると距離を取った。彼は正体不明の魔人に対する警戒を更に強めていた。『必穿の魔剣(フルンティング)』の剣技を初見で捌ききった人間はこれまでにいなかったからだ。


「我が剣技を全てかわすとは……。貴様の魔剣の能力は未来予知か、それに類するものか?」


 全くもって的外れな推測だったが、エイジはその勘違いを利用して挑発することにした。翡翠色の魔人が、『必穿の魔剣(フルンティング)』をどれくらい使いこなしているのかを確かめたかったからだ。


「どうだろうな。単純にアンタの攻撃が遅すぎただけかもしれないぞ?」


「ほざけ」


 翡翠色の魔人は警戒を強めていたが、余裕の姿勢を崩してはいなかった。


「その短剣――如何なる真名の魔剣かは知らんが、我が主人への手土産とする」


「へぇ。どうやって奪い取る気だ?」


 魔剣は宿主が生きている限り、他の人間の所有物になることは絶対にない。前世のエイジが魔剣を作成する時にそう設定したからだ。


「貴様を殺す」


 明確な殺意の宣言があった。ゾンッ、と翡翠色の魔人から発せられる魔力が膨れ上がった。


 翡翠色の魔人は魔剣を持った腕を後ろに引き絞り、弓に矢を番る様な構えをとった。そして、その切先はエイジの頭部を真っ直ぐに捉えていた。


「我が絶技を受けてみよ」


 翡翠色の魔人は魔剣を構えたまま一歩も動かず、その剣技を解放した。


絶穿(ぜっせん)


「ッ!」


 翡翠色の魔人が言葉を発した瞬間には、エイジは全力で首を横に振っていた。


 直後、轟音と破裂音が森に響き渡った。


 エイジの背後に庇われていたベアトリクスは自らの背後、『必穿の魔剣(フルンティング)』が向けられていた直線上の木々に大きな穴が穿たれていることに気がついた。穴は見渡せる限りずっと遠くの木々まで続いており、その威力を物語っていた。


 ベアトリクスは、ハッとしてエイジの方を見た。もしもエイジに直撃していれば、即死は免れないと思ったからだ。


 エイジの側頭部からは血が垂れていた。しかし、その頭部に穴は穿たれておらず、出血も大したものではないようだった。

 

 ほっと胸を撫で下ろそうとしたベアトリクスはエイジの表情を見て固まった。魔人化しているためわかりにくかったが、エイジは獰猛に笑っていたのだ。


「まさか()()()まで使いこなしているとは。しかし、絶穿――かっこいい技名だな」


 絶穿――それは、『必穿の魔剣(フルンティング)』の性能を最大まで引き出すことで放つことができる剣技である。効果は『魔剣の直線上に存在する物体を必ず穿つ』というものだ。魔剣の切っ先を向けてさえいればいいので、使用者が動く必要はない。前世のエイジもよく使っていた剣技だが、その時には技名を付けてはいなかった。


 エイジとは対照的に、翡翠色の魔人は驚愕の声を上げた。初見殺しとして絶穿に絶対の信頼を寄せていた翡翠色の魔人にとって、この状況は初めて直面するものであったからだ。


「何故だ? 何故生きている!?」


「どうしてだと思う?」


 絶穿を回避する方法はいたって単純である。()穿()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。当然、早すぎても魔剣の位置を調整されてしまうため、タイミングを見計らう必要がある。


 エイジは側頭部の破損を、魔力を消費して修復した。そしてアゾットを構えた。


「いいものを見させてもらったよ。それじゃあ、お返しだ」


 エイジは一息で翡翠色の魔人との距離を詰め、アゾットを振るった。短剣の一閃に込められたのは破壊の力。


 衝撃冷めやらぬ様子の翡翠色の魔人は反応が遅れ、咄嗟に魔剣を握っていない左腕でそれを防いだ。アゾットの刃はそのまま左腕を切り裂いた。


「グッ!?」


 呻きながらも、翡翠色の魔人は『必穿の魔剣(フルンティング)』を振るった。エイジはさらりとそれを回避して飛び退いた。


 翡翠色の魔人は魔力を消費して左腕の傷を治そうとした。しかし。


「傷が、癒えないだと?」


 それどころか、左腕の破損は傷口を起点としてどんどん広がっていく。翡翠色の魔人はエイジが持つ魔剣を見た。そして、自分の推測が間違っていたと悟った。


「我が剣技を凌いだのは、その魔剣の能力によるものではなかったのか!」


「ハハハ。勝手に勘違いしたのはそっちだろう?」


 アゾットによる斬撃は対象を破壊する。そしてその効果は、対象を破壊し尽くすまで続く。


 つまり、先の一撃による破壊は、翡翠色の魔人の金属装甲を完全に破壊し尽くすまで続くということだ。


 エイジは翡翠色の魔人に降伏を提案した。


「どうする? 今すぐ魔人化を解けば、傷口の崩壊は止まるぞ」


「魔人化を解けば、貴様は我を拘束するつもりだろう?」


「だとしたら?」


 翡翠色の魔人は、自らの傷口に『必穿の魔剣(フルティング)』を押し付けた。そして。


「絶穿」


 傷口が穿たれた。傷口が新たな傷で上書きされたことで、アゾットの破壊効果も消滅した。


「なるほど。確かに、そう言う解決方法もあるか」


 翡翠色の魔人は左腕を押さえながら、再びエイジに向けて細剣を構えた。


「まだやる気か?」


「我が主人のため、必ずその女は殺す」


 しかしその時、翡翠色の魔人の肩に一羽の白い鳩が降り立った。エイジはそれが遠隔連絡用に魔力で作成された使い魔だと気が付いた。


 鳩は翡翠色の魔人に何かを伝えると、役目を終えたようにポロポロとその体を崩した。それと同時に、翡翠色の魔人は魔剣を収めた。そして、エイジの後ろに座り込んでいるベアトリクスを見た。


「我が主人の命令だ、ここは出直そう。だが、次は必ず殺す。ーーーー閃光(ひかり)あれ」


 直後、ベアトリクスとエイジの視界が眩い光に包まれた。エイジは念のため、奇襲に備えた。しかし奇襲はなく、光が収まる頃には、翡翠色の魔人も、倒れ伏した護衛たちもいなくなっていた。


「あー、逃げられたか」


 自分以外の魔人に出会った興奮で、魔法への対処が疎かになっていたな、とエイジは反省した。


 エイジは、パン、と自らの頬を打って気持ちを切り替えた。そして後ろを振り向き、少女ーーベアトリクスに声をかけた。


「まあアンタといれば、いずれ向こうから来てくれるみたいだけど」


そして、座り込んだままのベアトリクスに手を差し伸べた。


「とりあえず、立てるかな?」


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