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3話 千年ぶりの魔人化

楽しんでいただけたら幸いです。

 アゾットと名付けた魔剣の性能を確認したエイジは、次の段階に移ることにした。


「次は魔人化だな」


 魔人化――魔剣の使用者は金属装甲と屈強な肉体を持つ姿に変身することができる。並みの武器ではその装甲に傷を付けることもできず、仮に傷ついたとしても、魔力を消費すればすぐに肉体の破損は修復される。


 エイジはアゾットを構え、魔人化するための単語(キーワード)を口にした。

 

「焼結」


 次の瞬間、エイジの肉体は白い炎に包まれた。炎の中で皮膚は強靭な鋼となり、その下の筋肉は屈強なものに変化していく。1000年ぶりに味わう肉体の変化に、エイジは苦悶の声を漏らし、片膝をついた。


「グッ、ウゥゥ!」


 肉体の変化は数秒で収まった。エイジはゆっくりと立ち上がると、近くの水たまりに自らの姿を映した。


 その姿は魔人の名にふさわしい異形のものだった。背丈は変化前の倍ほどに伸び、その肉体は歴戦の戦士のように屈強なものになり、黒い装甲で覆われている。頭部は黒と白の装甲に包まれ、眼窩では赤い瞳が怪しく輝いていた。


 そのシルエットは短めのローブを纏った骸骨のようにも見える。


 自らの姿を確認したエイジは、満足げに拳を握った。


「よし、成功した!」


 エイジは自分の身体や顔をペタペタと触った。


「魔人化すると、この年齢でも身長はかなり伸びるんだな」


 全盛期――前世のエイジが魔人化した時の身長には及ばないが、かなりの体躯だ。エイジは、水たまりに映った自分の姿を再度見つめた。


「この魔剣だと、こういう見た目になるのか。カッコいいな」


 魔人化の出来栄えに――少なくとも外見についてエイジはかなり満足していた。しばらくポージングをして全身を確認した後、エイジはおもむろに準備体操を始めた。


「ちょっと動いてみよう」


エイジは森の中を全力で駆けだした。力強い踏み込みで地面が大きく抉れた。


解析(アナライズ)


 直後、エイジの視界は拡張され、周囲の地形や動植物、そしてそこから割り出された最短ルートが映し出された。解析(アナライズ)は魔人の基本機能の一つである。物体の構造把握や、動作の最適解などを示してくれる。


 解析結果に従ったエイジは風を切りながら疾走し、僅か三十秒足らずで森を一周した。その事実にエイジは感心したように頷いた。


「思っていたより、よく動けている」


 隠れ家に戻ってくると、エイジは一度大きく深呼吸をした。


「魔人としての基本機能は正常に動作してるみたいだな。これなら、想定よりも早く元の感覚を取り戻せそうだ」


 エイジは魔人化を解いた。魔人としての能力の行使には魔力を消費する。いくら魔人化に慣れていたとはいえ、1000年のブランクはエイジに疲労をもたらしていた。


「ふう、疲れた。早く体を慣らさないといけないな」


 上々の成果を得たエイジは、疲れた体を引きずって帰路についた。家では、マリーが夕飯の準備をしていた。


「母さん、ただいま!」


「おかえりなさい、エイジ。夕飯もうすぐできるから、手を洗ってきなさい」


「はーい」


 エイジは元気に返事をした。そして、いつも通りの幸せな日常へと戻っていった。







 その夜、エイジは異様な魔力を感じ、目を覚ました。


「…………」


 前世で嫌というほどに感じ慣れた魔力だった。感覚を研ぎ澄ますと、その魔力が森から発せられていることに気付いた。エイジはそっと起き上がり、自らに隠形(ステルス)の魔法をかけた。


「影よ、我が身を隠せ」


 エイジは家族にばれないようにそっと家を出ると、魔力を辿った。やがて、森の奥深くに行きついた。


「この辺りか?」


 直後、腐臭がエイジの鼻を突いた。


「ッ!」


 エイジが慌てて飛び退ると、茂みの奥から五体の狼が姿を現した。狼たちは、明らかに異常な様子で、体から黒い靄のようなものを出していた。エイジはその様子に見覚えがあった。


「これは――瘴気!」


 瘴気――それは、深淵の獣の出現とともに、大地から湧き出した邪悪な魔力だ。瘴気にあてられた生物は正気を失って凶暴化してしまう。深淵の獣を封印したことで瘴気も消えたはずだった。逆説的に言えば、瘴気が発生しているということは――


「やっぱり封印が解けかけているみたいだな」


 一匹の狼がエイジに襲い掛かった。エイジは咄嗟に地面に手を当てた。


「大地よ!」


 魔法の短縮詠唱。エイジの構築した術式はすぐに魔法として発動した。


 襲い来る狼の足元から現れた土塊が、その腹をしたたかに突き上げた。狼は苦悶の声を上げて飛びのいた。


 普通の狼であれば、先のエイジの攻撃で腹が裂けていた。しかし、深淵の獣の瘴気に浸食されたことにより、狼の肉体は非常に頑丈になっていた。このまま無闇に魔法を使うだけでは、エイジの魔力が尽きるのが先だろう。


 それに、今のエイジには、瘴気にあてられた狼たちを元に戻す手立てがなかった。エイジは悔しそうに歯噛みした。


「『聖浄の魔剣(フィエルボワ)』があれば、瘴気だけを取り除けるんだが」


 かつてエイジが所有していた瘴気を取り除く魔剣は、聖女(シーナ)の協力によって作成できたものである。今のエイジが作成することは不可能だった。エイジは覚悟を決め、アゾットを構えた。


「許せ。――焼結」


 エイジの体は白い炎に包まれ、すぐに魔人の姿へと変貌した。エイジは姿勢を低くすると、野犬たちに突進した。そして一瞬で一番近くにいた狼の一匹に肉薄すると、アゾットを振るった。


「シッ!」


 アゾットの刃は狼の首を斬り飛ばした。血しぶきが舞う。エイジは続けざまに二匹の狼の首をはねた。


 残った二匹の狼たちは怒り狂って牙をむき出しにし、エイジに襲い掛かった。鋭い牙や爪がエイジに突き立てられるが、魔人の装甲の前には傷一つ付けることもできなかった。残りの狼にも、アゾットが振るわれた。直後、残っていた狼たちは絶命した。


 そして、森には再び静寂が訪れた。エイジは魔人化を解くと、自らが命を奪った狼たちに手を合わせた。


「せめて、安らかに。――清めたまえ」


 エイジは狼たちの血や泥を魔法で洗い流し、きれいにした。その後、地面に魔法で穴を掘ると、その中に狼たちを埋葬した。


 その後、エイジは近くの着にもたれかかり、瘴気の出所について考えた。深淵の獣を封印しているアークから漏れたと考えるのが妥当だが、この近辺にアークの反応はなかった。となると、どこかでアークに接触した狼たちが、この森まで移動してきたいうことだろうか。


「あるいは、誰かが故意に連れてきたか」


 それはエイジが最も考えたくない推測だった。しかし、一方でそういうこともあるだろうとは覚悟していた。1000年前でさえ、深淵の獣の力を利用しようとした者はいたのだ。この時代にもそういう者がいてもおかしくはない。


「そうなると、ますます面倒になるな……」


 できる限り穏便に、かつ秘密裏に深淵の獣に対処しようと思っているエイジにとっては、騒動の種が増えることは大問題だった。


「とりあえず今日は、勝手に家を出たことがバレる前に帰ろう」


 エイジは自らの身を清めると、帰路についた。狼たちが瘴気にあてられた原因や、その痕跡を探したいと思っていたが、疲弊した状態では危険だと判断したからだ。


「また明日、見にこよう」

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