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2話 素材集めと魔剣作成

投稿初日のため、少し間を開けて3話投稿します。

3話目です。


楽しんでいただけたら幸いです。

「え。まだ残ってるの?」


 エイジの言葉に、アランは頷いた。


「ああ。中規模や大規模の領地を治めている領主様は大体が魔剣を授けられているはずだ。お父さんたちが若い頃に、先代のヴァリエンテ侯爵様がこの荘園を視察されたんだが、その歓待の席で魔剣を見せて下さったんだ」


 しみじみと、かつ憧れをにじませた声でアランは続けた。


「あの時の光景は忘れないだろうな。侯爵様が魔剣を握って言葉を紡がれると、そのお身体が鎧をまとったように金属で覆われた。先代のヴァリエンテ侯爵様はもうお年を召されていたんだが、その時には筋骨隆々になっておられた。あれが魔人化、というものだったんだろう」


 これは間違いなさそうだ、とエイジは思った。魔剣由来の金属装甲と、肉体の超強化は、魔人の基本機能であった。


「でも、父さん。魔剣って新しく作られたりしていないの? 兵隊さんみんなに魔剣を配ればいいんじゃないかと思うんだけど」


「お父さんもそう思って、先代のヴァリエンテ侯爵様に伺ってみたんだ。今思い返すと、下手をすれば首が飛んでいたな。……ああ、それで、エイジの質問の答えなんだが、魔剣は英雄エイジの死とともにその製法が失われてしまったらしい。だから、貴族様たちは魔剣を代々大切に受け継いできたんだそうだ」


「そうなんだ……」


 確かにエイジは千年前、悪用を恐れて魔剣の製法は誰にも伝えていなかった。てっきり、自分亡き後には魔剣を解析して製法を割り出されているものと思っていた。或いは、魔剣にかけていた抗術(プロテクト)の魔法によって解析が充分にできなかったのかもしれない。


 魔剣を取り戻すハードルが思っていたよりもはるかに高いことにエイジは一瞬落ち込みかけた。だが、全体的な戦闘力の引き上げという観点から見れば、この状況はむしろ良いかもしれないと思い直した。


 それに、自分が使うものがなければ、自分で作ってしまえばいいのだ。そう思ったエイジは、新たな魔剣を作ることにした。







 次の日の朝、家や近所の手伝いを済ませたエイジは、地面に魔剣製作に必要な材料を書き出していた。


「魔力を含んだ野鳥の羽、質のいい砂、清らかな水、魔木の樹液、魔結石、鉄――」


 鍛冶師が聞いていれば、耳を疑うような素材ばかりだった。


「製法からして普通の武器とは違うからなあ」


 エイジは呟いた。記憶を手繰り、何十種類もの素材をリストアップしたエイジは、早速素材集めに取り掛かることにした。


「まあ、そんなに簡単に集まるとは思ってないけど」


 千年前にエイジが初めて素材を集めた時には、大変な労力と資金が必要だった。当時ほどとはいかないまでも、エイジは年単位で準備期間を設けなければならないと覚悟していた。


 しかし――


「いつも手伝ってくれてありがとうな、エイジ。野鳥の羽? ああ、売り物にもならないやつが沢山あるから、どんどん持って行っていいよ。魔力が含まれてるって言っても、今じゃあこういうのは市場に溢れてるからね」


「カミさんの弁当を届けてくれて助かったよ、エイジ。魔木? 二百年くらい前に品種改良と大規模な植樹が行われたから、あっちから向こうは全部がそうだよ」


「魔結石か。授業で使った後のくずならいくらでもあるよ。しかし大変だね、魔法盤戯(マギノリオン)の駒の材料にでも使うのかな? ついでと言っては何だが、強い駒の作り方をお兄さんに教えてくれないかい?」


「鉄くずなら、ある程度は分けられるぞ。なに、この前の賭け魔法盤戯(マギノリオン)、お前さんに作ってもらった駒で大儲けしたんでな。そのお礼だ」


 ――すんなり集まってしまった。


「文明の発展ってすごいな……」


 素材集めがあまりにも順調に進んだことに、エイジは時代の流れや進歩を感じて震えた。


 しかし、エイジ自身は気付いていなかったが、ここまで素材集めが捗ったのはエイジ自身の人徳でもあった。幼いながらも自分の家だけでなく荘園の手伝いにも進んで取り組む姿を荘園の住人はずっと見ていた。魔法盤戯(マギノリオン)の精巧な駒を作ることができる手先の器用さや手伝いを任された時の頭の回転の速さは、私塾の教師をもって受講が楽しみだと思わせるほどだった。そこに、両親譲りの茶髪と愛らしい顔立ちが相まって、荘園でのエイジの評判はすこぶるよかった。


「ま、まあ。すんなり集まったのはよかったな、うん。よし! 気持ちを切り替えて、明日、魔剣を作るか!」


 翌日、エイジは両親に荘園の手伝いに行ってくると言って、素材を適当な袋に詰め込むと、近くの森を目指した。エイジは普段から荘園のあちこちで手伝いをしていたので、両親や兄姉に疑われることはなかった。少し申し訳なく思いながらも、エイジは手慣れた様子で森に分け入った。


 森の小さな洞穴のような場所が、エイジがここ一年程で作成した隠れ家だった。そこは、前世の記憶を生かした魔法や肉体の鍛錬を行うには最適の場所だった。


「よし、始めよう」


 エイジは隠れ家の地面に布を広げた。次に墨と筆を取り出すと、エイジは自分の指を嚙み、墨に自らの血を数滴たらした。そして丁寧に混ぜると、その墨で魔法陣を描き始めた。布はエイジがこれまでの手伝いで貯めた小遣いを全てはたいて買ったものだ。年に一度の祭りの時に、荘園を訪れた行商人からこっそりと手に入れていたのである。


 エイジは朝から作業を始めたが、複雑で精巧な魔法陣を書き上げるころには昼になっていた。


「ふう。下準備は終わったな」


 次にエイジは魔法陣の上に集めた素材を載せた。ゆっくりと魔法陣に魔力を通しながら、詠唱を始めた。エイジは前世の記憶を思い出した幼子の時から、魔力を増やす鍛錬をこっそりと行ってきた。そのため、今世のエイジの魔力は前世の同時期と比べ遥かに多かった。


「地より出で、水に清められ、風を呑んだ鈍鉄(にびてつ)、我が血に焼かれ、輝く鋼と成らん」


 魔法陣に置いた素材に変化が起こり始めた。自然由来の素材は溶けて鉄くずの塊に集まっていく。そして、魔法陣が強く光ったかと思うと、鉄くずは5色に光る不思議な色合いの炎に包まれた。


 エイジはその様子を注意深く見つめながら、詠唱を続けた。

 

「輝く鋼、我が求めに応え、剣と成らん。その剣、我に仇敵を討つ絶対の刃と、我が最愛を守る絶対の肉体(たて)を与えん」


 エイジの詠唱が進むにつれ、鉄くずは鋼となり、鋼は炎の中で形を変えていく。


 どれくらいの時間がたっただろうか。炎が消えると、魔法陣の上には、一振りの短剣が残った。短剣は両刃で、10歳のエイジの身体で振るうには少し大きかった。黒い柄とは対照的に、刀身はとても白く輝いていた。エイジは短剣を手に取り、軽く振るった。


「うーん、今の俺だと、これくらいの大きさが限界か」


 エイジは洞穴を出ると、手短な岩に短剣を突き立てた。ずぶり、と短剣の刀身が岩に沈んでいく。エイジはそのまま魔力を込めた。すると、その岩はぐにゃりと形を崩し、精巧な野鳥の形に変化した。


 次にエイジは、短剣をそのまま横に凪いだ。まったく力を入れていなかったにも関わらず、野鳥の形をした岩は真っ二つに両断された。


 その様子を見て、エイジは満足そうに頷いた。


「まあ、性能的には、予定通りのものができたかな」


 創造と破壊――それが、エイジが作成した魔剣のコンセプトである。今回はすんなりと素材が集まったが、何回も同じようにはいかないとエイジは考えていた。しばらくは一本の魔剣で事を成さなければならないということを考え、エイジは魔剣に、汎用的かつ応用の利く能力を持たせたのだ。


「後は、こいつの名前だな」


 前世においてエイジは、自らが製作した魔剣一本一本に名前を付けていた。当然、今世で初めて作成した魔剣にも立派な名前を付けてやるつもりであった。


 エイジは腕を組んでしばらく考えていたが、やがて顔を上げた。


「そうだな……。創造と破壊――よし! お前の名前は『始まりと終わり(アゾット)』だ」




 


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