6.ギルドへの報告
「試練のダンジョン」から出た俺は、その足で冒険者ギルドに舞い戻った。簡単な経緯は通話の魔道具で報告してあるが、もう少し詳しい報告ってやつを上げなきゃならねぇしな。
やつらが俺に斬り付けた事は報告しなかったんだが、ジャケットの背中が斬り裂かれているのを見て、ギルマスは仔細を悟ったみてぇだった。……物凄ぇ顔をしてたんだが……俺を睨んだって仕方ねぇだろうが。
「……そもそも、アンデッドが多いダンジョンで死霊術師を追い出すなんざ、あの小僧ども何を考えてるんだ? いや……何も考えてないから追い出したのか……」
「聖女とやらに縋るつもりだったんじゃねぇですかね? 平原で狩りをした時にゃ、そこそこデバフを放ってたみてぇですから」
「そりゃ、バフやヒールはお手のものかもしれんが……教会の聖魔法は、基本的に生者が対象だろう。アンデッドの討伐は死霊術師の職分だったんじゃないのか?」
「そんな事まで気にしてなかったんじゃ? 何にせよ、斥候の指示を無視して勝手に突っ走った挙げ句、俺を囮にしてアンデッドから逃げようなんて謀った連中ですからね。これ以上関わるなぁ御免ですぜ?」
「あぁ、解ってる。ここまで虚仮にされたからには、ギルドとしてもこれ以上の協力はできん」
駆け出しの下っ端とは言え、ギルドのメンバーが殺されかけたんだからな。ギルドもこれ以上下手に出るような真似はできねぇか。
「一応確認しておきてぇんだが……お前から見て、あの連中はどうだった?」
――そうギルマスが俺に訊いてくるんだが……俺だってまだまだ駆け出しの身だぜ? 人様の評価なんかできる立場じゃねぇよ。けどまぁ……敢えて言うなら、
「……『勇者』の小僧は【剣術】か何かのスキルを持ってるみてぇでしたね。素質だけなら充分でしょう。けど……残念ながら、経験ってやつが圧倒的に足りてねぇ。魔物相手の戦い方も知らずに、相手が何だろうと対人戦の要領で突っ込んで行きやがる。あれじゃ長生きできねぇと思いますね」
「ふむ……経験不足の小童を、選りに選って『勇者』に仕立て上げたか。……タルカー司教も随分と焦ってるようだな」
「……続けますぜ? 『聖女』の方は、バフやデバフの能力はそれなりにあるみてぇだが、戦いの最中にそれを放つタイミングが解ってねぇですね。こっちが一々指示してやんなきゃ、マゴマゴするばかりで何もできねぇ。ありゃ、単なる経験不足だけじゃありやせんね。ガキの頃から乳母日傘で育てられて、自分から何かしようとした事が無ぇんじゃねぇですか?」
「あの『聖女』はタルカー司教の愛娘だそうだからな。そういう事もあるかもしれん」
「なるほどね……。ちなみに、バフやデバフの効果についちゃ、俺は判りませんぜ。ちんけなコソ泥風情にかけるバフなんざ、聖女様はお持ちでないようでしたんでね」
腹立ち紛れに皮肉ってやったが、ギルマスは顔を顰めるだけで何も言わなかった。……考えてみりゃ、ギルマスに八つ当たりすんなぁ筋違いだよな。
「……すいませんでした。……『聖騎士』ですが、パーティの中じゃまだマシな方だと思いますね。少なくとも、自分の役目ってやつを心得てるようでした。……尤も、パーティ全体が危機に陥ってる時にも、頑なに聖女の傍から離れようとしないのは戴けませんがね」
パーティが崩壊しちまったら、聖女の護衛もへったくれも無ぇだろうによ。
「あとは『聖魔術師』ですが、一言で云えば典型的な学校秀才ってところですか。何でも全属性の魔法を使えるそうですが、こいつもまだまだ経験が足りてませんや。教科書どおりの使い方しかできねぇみてぇで、器用貧乏な面が見られましたね。なのに本人は、色んな魔法を使えるのがご自慢のようで……。ただ、俺の目から見ると、必ずしも最適な魔術を使ってるようにゃ見えませんでしたがね」
魔術師が優秀かどうかは、使える魔術の数や魔力量で決まるんじゃない。ある局面でどの魔術をどう使うべきか――それを的確に判断できるかどうかで決まる。
……少なくとも、俺はそう教わった……優秀な先達たちからな。
「ふむ……要約すると、まだ経験の足りてねぇ青二才って事か?」
「少なくとも、一端のパーティとして動けるたぁ思えませんね。もう少し色んな経験を積んでから出すべきだったと思いやすぜ?」
偏見が混じってねぇたぁ言わねぇが……あの性根が変わらねぇ限り、真っ当な成長ってやつぁ望めねぇような気がするんだがな。
「解った。話は変わるが、お前が持ち帰ってくれた帯留め鞄な、『ミスラルの旗』の持ち物だったと確認が取れた」
「……俺たちの前に双面獣の魔石を依頼されたパーティですかぃ?」
「あぁ……良いやつらだったんだが……お前の推測どおり、斥候一人になっても魔石を持ち帰ろうと、必死だったんだろうよ」
「じゃ、その連中の依頼は完了したって事で」
「……いいのか?」
「俺が双面獣を討伐したわけじゃありませんからね。落とし物を拾っただけだってのに、依頼完了にゃならんでしょう」
「……解った。この件は『ミスラルの旗』とお前が共同して果たしたって事にしておく。……あのガキどもは無関係って事だな」
「いいんですかぃ? そりゃ、俺としたら助かりますけど」
「構わねぇ。それだけの事をしてくれたからな」
そんな事を話していると表の方が騒がしくなり……小僧どもが帰って来た事が知れた。




