3.尻拭いの打診
ま、ともかく予想された展開ってやつは切り抜けたんで、俺はさっさと安全な場所に移動して、通話の魔道具を取り出した。
こいつはギルドからの借り物で、何かあった場合に連絡しろと持たされたもんだ。その魔道具を起動させて暫く待ってると、通話口に相手が出た。
「ギルマス、現在地はダンジョンの四階層だ。坊ちゃん方は俺を置き去りにして逃げちまった」
『マジか……お前の懸念が当たったってやつか……』
「どうすんだ? 幾ら何でも、このままやつらの前に顔を出せってなぁ、御免被るぜ?」
『そこまでしろたぁ言わねぇ……依頼内容は五階層のフロアボスのドロップ品だったな?』
「あぁ、一応な」
ただでさえ厄介なダンジョンなのに、五階層のフロアボス討伐なんざ無理だって言ったんだが……あの小僧ども、承知しなかったんだ。自分たちならフロアボスくれぇお茶の子だ、コソ泥は隅っこで震えて見てろ……なんつってたけどな。
『……素直に戻って来るならいいが、五階層に向かうようなら面倒だな。……やつらに勝ち目はあるか?』
「五階層のフロアボスは双面獣だぜ? ただの腕力馬鹿じゃねぇ。あのお坊ちゃまたちじゃ無理だろうよ」
『……解った。念のため五階層に向かってくれるか? もしもやつらがドジ踏んでたら、逃げるのを手伝ってやってくれ』
「……俺にパーティに戻れってのか?」
『いや、その必要は無ぇ。こっそり手助けするだけで充分だ』
「五階層にいなかったら?」
『そん時ゃさっさと戻って来い。案内役を置き去りにするくれぇだ。自分たちだけで戻れるって自信があるんだろうよ』
――てなわけで、俺は単身五階層に向かったわけだ。
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自慢するわけじゃねぇが、俺は斯う見えても、既に五階層は突破してる。……まぁ、俺一人で突破したわけじゃなくて、初回は他の連中と一緒だったんだがな。あぁ、そん時ゃちゃんとしたパーティだったんでな、キチンと斥候としての役目を果たしたともさ。……まぁ、斥候よりも死霊術師としての腕を買われたわけだがな。
実を言えば、俺に限らず死霊術師ってなぁ、ダンジョンはお手のものなんだ。
ダンジョンのおっかねぇところは、物陰からの奇襲や罠にしょっちゅう出会すってとこだ。
それに加えて足場が悪い。どこにどんな窪みや出っ張りがあるのか判らねぇのに、魔物たちはそれを熟知してやがる。地の利ってやつは向こうにある上に、集団で連携して襲って来る魔物もいる。
言い換えると、そういう情報を事前に知っていさえすりゃあ、ダンジョンの攻略は一気に難度が下がる。斥候職が重宝される理由だな。
――で、だ。俺たち死霊術師の場合は、頼もしい案内人の協力を当てにできるのよ。
人だろうが魔物だろうが、ダンジョンで死んだ者の屍体はダンジョンに吸収される……って事は知ってるだろうが、魂はどうなのか知ってるか?
実は、ダンジョンってなぁ魂は吸収しねぇんだ。
まぁ大抵の場合は、魂も直ぐに力を失って散っちまうんだけどな……力の強い魂、それも無念の想いを強く抱いて死んだ魂とかだと、結構長く残るのよ。いわゆる死霊とか怨霊とかってやつだな。……んで、この死霊たちは揃ってダンジョンに遺恨を持ってるわけだ。
で――俺たち死霊術師は、そんな死霊と話ができる。
つまり……ダンジョンの情報やら魔物の出没地点やら安全なルートやらを聞いて、危なげなくダンジョンを進めるのよ。魔物の不意討ちを事前に教えてくれたりもするしな。死霊たちにしてみれば、同じ冒険者仲間でもあるし、ダンジョンに一泡吹かせる手助けもできるって事なんだろうな。
それだけじゃねぇ。案内人の死霊がいない場合でも、死霊術師にゃあ死の痕跡を読み取る能力ってやつがある。その能力で危険な場所を察知できるって寸法よ。
万一魔物に出会したとしても、屍体の発する「気」を装って、魔物の目を誤魔化す事もできる。そのまま魔物をやり過ごすなり、不意を衝いて襲うなり、お望み次第ってわけだ。死霊術としちゃ初歩的な技術なんだが、あまり知られていねぇなぁ……やっぱ外聞が悪いからなんだろうな。
まぁそんなわけで、五階層に行って帰って来るだけなら、そう難しかぁねぇ。実際に、二回目以降は双面獣の目を掠めて突破してるしな。ギルマスもそれを知ってっから、様子を見てこいなんて言ったんだろう。
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……で、五階層に下りて来たわけなんだが……どうもそれらしい気配はしねぇ。
ま、折角ここまで来たんだし、知り合いの顔でも拝んで帰るか――と思ったわけだ。