2.背信の勇者パーティ(笑)
まぁそんなわけで、お坊っちゃま方を適当な狩り場にご案内して、討伐ごっこをさせてたんだけどな……ある時、ダンジョンに潜ってみたいって言い出したんだわ。
アロニー――当時俺がいた町の事な――の近くにゃ一応ダンジョンがあって、そこを稼ぎ場にしてる冒険者も結構いたんだが、さすがに駆け出し以前のヒヨっ子にゃ荷が重いだろうってんで、ご案内は控えてたわけだが……どうもそれが気に障ったらしいんだな。〝仮にも勇者を名告る者が、ダンジョンの一つ二つ踏破できないでは示しが付かん〟――てな事を言い出した。
一応ギルマスとも相談したんだが、〝遣りたいってんなら遣らせてやればいいだろう〟――って事になった。何かあっても自己責任って事を念押しした上でだけどな。
で、手頃なダンジョンにご案内って事に相成ったわけだ。
「試練のダンジョン」の事ぁ知ってるだろ?
様々なタイプの魔物が満遍なく出現する上に、罠も充実してる。おまけにダンジョンの外側にも高レベルの魔物が出現するってんで、初心者の関門みてぇに扱われてるダンジョンよ。
問題が起きたなぁ、そのダンジョンの中でだった。
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三階層までは俺が先導して安全なルートを進ませていたんだが……どうやらそれがお気に召さなかったようでな。仮にも「勇者」のパーティが、尻の青いコソ泥の指示になんざ従えんとか言い出しやがったのよ。解るか? こっちゃ、罠や魔物の所在を確認した上で、安全な道を進むように苦労してたんだぜ?
……まぁな、今にして考えてみりゃ、態とお手軽な魔物のとこにでも案内して勝たせてやって、自尊心を擽ってやりゃ良かったんだろうが……その頃ぁ俺も駆け出しで、そこまで気持ちの余裕も無かったしな……
でだ、何が起きたかってぇと……「勇者」の小僧が俺の指示を無視して勝手に進んだ挙げ句、警報トラップに引っかかっちまったのよ。
あのダンジョンの事を知ってんなら、三階層はアンデッド祭り、四階層はそれに加えてゴーレムが出るって事も知ってるよな?
その厄介な四階層で警報トラップなんぞに引っかかったもんだから、骨と腐肉が大挙して追っかけて来やがった。小僧どもも一匹二匹ならものの数じゃねぇんだろうが、さすがに五十以上に迫って来られるなぁ御免らしく、青い顔して引き攣ってやがったな。
小僧どもを先に逃がして、こりゃ俺が残ってアンデッドどもを足止めするしか無ぇかと思案しつつ追っ手の様子を窺っていたら……不意に背中に衝撃を受けた。
無様に倒れ込んだ俺を見下ろしてやがったのは、先に逃がした筈の小僧どもだった。
「はっ! お前にはここで囮になってもらう!」
「下賤なコソ泥風情が殉教者になれるのよ? 光栄に思いなさい」
「偉そうに僕らに指示を出しておきながらのこの失態、その身を以て償ってもらいますよ?」
「精々足掻いて時間稼ぎをするがいい」
手前たちの不始末は棚に上げて、俺を生贄にして自分たちだけ助かろうってんだ。さすが悪名高いドープ真理教会ってとこか。
倒れたままの俺が見送る中、やつらはさっさと逃げ出してったよ。
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小僧どもの姿が見えなくなった頃合いを見計らって、俺はどっこいしょと起き上がった。……あの馬鹿勇者、人も魔物も碌に斬った事が無ぇみてぇだな。
ジャケットの下に着込んでいた革鎧は、魔物の革を使った特別製だ。ヘボが幾ら斬り付けたところで、掠り傷一つ付けられるもんかい。……あいつの助言を聞き入れといて良かったぜ。
〝高慢ちきなパーティに交じってダンジョンを攻略? ざまぁ展開のテンプレじゃないか!〟
〝……あんたの言う事が解らねぇのはいつもの事だがよ、その「ざまぁ展開」ってのは何なんだ?〟
〝あー……要点だけ掻い摘んで言うとだな、お前がその勇者パーティに裏切られて、独りダンジョンに取り残される――っていう展開だな〟
〝いや……道案内の俺を残して、駆け出し四人でどうするってんだ?〟
〝そう言う場合はアレだな。何かのアクシデントが起きて、お前を囮にして助かろうとするんだ。後ろからバッサリ……っていうのがお決まりのパターンだな〟
〝マジかよ……確かに信用ならねぇ連中っぽかったが……こりゃ、それなりの用意ってやつをしといた方が良いか?〟
〝それが無難だろうな。定番では裏切られた後、主人公は窮地を生き延びて成り上がり、裏切ったやつらにざまぁ見ろって目を見せるんだ〟
〝あぁ……それが「ざまぁ展開」ってやつか……〟
俺に入れ知恵してくれたなぁ、自称「賢者」のシグってやつだった。……何百年か前に死んじまって、今は地縛霊ってのになってるけどな。
ひょんな事から知り合って、俺が死霊術師で話ができるもんだからって、色々と助言ってやつをしてくれんのよ。本当に賢者だったのかどうかはともかくとして、教えてくれる知識は確かなんで、いつも有り難く聞くようにしてる。……大昔に「ニホン」とかいう国から転移してきたとか言ってるけどな。