1.不信の契約
俺が基本ソロでやってきたってなぁ話したよな?
その理由は、まぁ死霊術師ってのがあまり好かれる仕事じゃねぇってのが大きいんだが……それ以外に、俺の方にも事情ってやつがあってな……
今日は一つ、俺がそうなった経緯ってやつを話すとするか。
ありゃあ、俺が駆け出しの冒険者として仕事を始めて、それなりに実績ってやつを積み始めた頃の事だったなぁ……
――その日、冒険者ギルドに顔を出した俺は、何の説明もされずにギルドマスターの部屋へと連行された。あぁいや、別にその事をどうこう言おうってんじゃねぇんだ。そのギルドマスターも横暴とかってんじゃなく、せっかちで面倒臭がりだっただけだからな。どうせ説明するんだから、一度で済ませた方が面倒が少ない――って考えるやつぁ、冒険者にゃあ珍しくねぇんだよ。
……話が逸れたな。
ギルマスの部屋にいたなぁ、ギルマスとサブマスの他に、四人の若ぇ冒険者だった。……いや……当時は俺も若かったんだけどよ。そんな駆け出しの俺から見ても、碌に経験を積んでねぇヒヨっ子ってのが丸判りだった。
……なのにそいつらときたら、偉そうな目でこっちを見やがって……。あぁ、お偉いさんの身内だろうってなぁ、その時点で想像が付いたよ。それと同時に、厄介な仕事を押し付けられるって事も気が付いた。ま……結果から言えば、俺やギルマスの予想を超えた厄介事だったわけだがな。
・・・・・・・・
「……つまり何ですか? 俺に、こちらさんのパーティに同行しろ――と?」
煮え切らない様子のギルドマスターが説明した内容を要約すると、そういう事だった。思った通り厄介事だ。しかも悪評紛々たる、あのドープ真理教会絡みときたもんだ。
「ふん。本来ならコソ泥ごときの参加は認めないのだが、ギルドマスターがどうしてもと言うから雇ってやるのだ。ありがたく思うがいい」
どうしたもんかと黙っていたら、パーティのリーダーっぽい若造がそう言った。夜郎自大もここまでくれば大したもんだと感心していたら、連中、用は済んだとばかりに勝手に退散して、後には俺とギルマスだけが残された。
「ギルマス……これは俺に対する遠廻しな制裁とか脱退勧告とか最後通牒とか……?」
何かギルドの気に障る事をしただろうか? そう悩んでいたら、
「いや、そうじゃねぇ」
面倒な四人組がいなくなった事で、漸く詳しい事情ってやつを聞く事ができた。聞いてみりゃあ何の事は無ぇ。要は面倒事を押し付けられた冒険者ギルドが、今度は俺にその面倒事を押し付けたというだけだった。
「……やつらはドープ真理教会が認定した『勇者パーティ』ってやつだ。もう少し詳しく言えば、この件を画策したなぁタルカーって司教だな」
あ、一応説明しておくと――「勇者」ってのは各宗教の教会や国がその都度適当に任命したもので、神のお告げがどうこうってもんじゃない。まぁ、お偉方が人気取りのために任命する看板みたいなもんだ。この場合、お偉方は勇者の金蔓……つったら言い過ぎか……要は後援者ってやつに当たる。
んで、ギルドマスターによると、今回のパーティは、「聖女」を売り出したい司教が運動して任命に至ったらしい。何でも、「聖女」がタルカー司教とやらの娘だとか。
「さすがに『聖女』を独りで出すなぁアレだってんで、司教が目をかけている若ぇやつらから三人を選んで、パーティに仕立て上げたらしい」
「はぁ……」
「勇者」ことバーク・チェタラーズ
「聖女」ことシヴィア・タルカー
「聖騎士」ことエイブラール・ノルキンズ
「聖魔術師」ことジョス・ゾールマン
この四人がパーティを組むらしいんだが……
「……ちょい待って下さいよギルマス。斥候職は俺がやるとしても、壁役がいないんじゃないですか?」
「あぁ、自分の身ぐらい自力で守れるから、壁役なんぞ要らんそうだ」
「はぁ……」
「一応、『聖女』の護衛は『聖騎士』が務めるようだがな」
「……つまり何ですか? 『聖騎士』ってのはアタッカーじゃなくて……?」
「『聖女』個人の護衛だな」
「はぁ……」
いや、溜め息しか出なかったね。各自勝手に我が身を守り、単独で攻撃するってんなら、そりゃもうパーティじゃねえだろう。この分だと連携なんざ考えてもいないんじゃないかと思ったが……後になってそのとおりだと判った。
で、斥候職がいない理由なんだが……
「教会……ってぇかタルカーのクソ坊主は、〝コソ泥じみた斥候職など要らん〟とか言ってやがってな。なのに、やつらの安全は保証しろときたもんだ」
おぉ……随分と斥候職を馬鹿にしてくれるじゃねぇかよ。んな事言ってると誰も相手に……あぁ……だから俺みたいな下っ端のところへ話が来たわけか……
「――ってぇか、フリーの斥候職なんて元々数が少ねぇだろうが」
それもそうか……
「でな、あちらさんがおっしゃるには、教会が認定した者以外をパーティに加えるわけにはいかんそうだ。お前は道案内に雇われるって形になる。――けっ、金利教の分際で言ってくれるぜ」
……ギルマス、結構頭にきてんな。
まぁ、真理教会は別名を金利教って言われてるぐれぇだ。勢力拡大のためなんだろうが、権威主義的・拝金主義的な傾向があるし、一部貴族に擦り寄ってその威を借るように振る舞って、俺たち庶民を見下してるからなぁ……
ま、それはそれとしてだ。パーティの斥候として正式に雇われるわけじゃないってんなら、俺の立ち位置ってやつはどうなるんだ?
「あちらさんがお望みなんだ。連中の面倒を見る必要は無ぇ。『業績』だけ積んでもらって、さっさとお引き取り願うさ」
「つまり……?」
「あぁ、『経験』を積ませる必要は無ぇ。適当なところを適当に案内してやんな。そうすりゃ、やつらは勝手に『業績』にして吹聴するだろうよ。……ギルド員でもねぇやつのために、こっちが苦労する必要なんざ無ぇからな」
本作と同じシリーズで、「デュラハンの首」「飽食の餓死者」が公開されています。
また、作者の別作品「従魔のためのダンジョン、コアのためのダンジョン」「スキルリッチ・ワールド・オンライン」「転生者は世間知らず」「成り行き乱世シリーズ」も、宜しければご覧下さい。




