中継ぎ転向
「母さん、明日初先発だからテレビつけてよ」
「えっ?」
「だからぁ、明日初先発なの!」
「ほんとに? 見栄張ってるんじゃないの?」
「ほんとだよ! わかった?」
「え……うん、わかったわよ」
数年後
「お前は今シーズンから中継ぎで頼む」
「えっ……」
「お前の実力では先発は厳しい」
「……はい」
田中田彰男
高卒7年目24歳右投右打
「なんでだよーーー」
「はぁ、なんで俺が……」
「大丈夫ですよ、田中田さん!」
「おお近藤か」
こいつは近藤厳一見強そうな名前だが小心者だ
「で、なんだ? 言いたいことあんのか?」
「はい! 田中田さん、リリーフだっていいピッチャーいますよ!」
「それはわかってる、だけど俺は先発からリリーフだ、要は実力不足ってことだ」
「でも、先発からリリーフ転向した人でもいい選手いますよ!」
「例えば?」
「愛知の谷川は元々先発でしたよ」
「谷川は一昨年防御率2.54 29セーブしたが、去年は防御率5点台だよ、しかも今年の初めに左太腿裏肉離(肉離れ)してるから今シーズンは遅れるだろう」
「じゃあ、えーと……えーと……」
「もう大丈夫だ近藤、お前は休んでろ」
「……はい」
「……行ったか、はぁーどうするか」
「ん? 田中田じゃないか、どうしてそんな元気がないんだ?」
「あっ橋本コーチ、あのー」
「なんだよ、言ってみろ」
「……やっぱいいです」
「お前の言いたいことはわかるぞ、『何故俺をリリーフにした』だろ?」
「えぇ!? なんでわかるんですか?」
「俺もその経験があるからだ」
「えっ? でも橋本コーチは入団時から中継ぎ投手だったんじゃ……」
「俺も大学途中までは先発だったよ。でも大学3年の時に怪物に会った、それが現九州ファルコンズ監督の鱒田孝三だ」
「あの200勝投手の……」
「俺の方が歳も2つ上だし絶対俺がエースだと思ってた、だが、すぐにわかった。あいつは本当の怪物だと……」
「……でっでも、俺にはそんな存在いませんよ!」
「いや、お前にはその存在が沢山いる。俺は大学だったがお前はプロだ。ライバルは多い! 西村や樋越、山岡、正直お前より若くていい先発はいるんだ。だが……」
「じゃあなんで俺なんですか!俺より年取ってる先発はいますよ!」
「違う! 俺はお前の良さを見つけた。お前は短いイニングの方がいいんだ。数字が全てを表している」
「数字?」
「お前は一軍二軍問わずに6.7回から被安打、失点が多い」
「本当だ……」
「しかもお前は俺の大学時代と数字が似ているからな、俺みたいな成績が残せると期待している」
「は……はい! 頑張ります」
「じゃあな」
「ありがとうございました!」
(最後のいるのか? まぁ期待されてるんだしいいか)
選手名鑑
(投)田中田彰男(24)
右投右打177cm73kg
昨季の成績 防御率4.12 4登板(4先発)1勝2敗23イニング18奪三振
プロ7年目の右腕。飛躍のために、まずはフォームを固める。