追っ手
剣闘士たちは、アキたちを追いながら、立ち寄る集落で略奪を繰り返した。食べ物を要求し、ただで寝泊りを繰り返す。村人は皇帝の命をうけた彼等に逆らうことなどできなかった。最初はお金を持っていた善良な者達も、日がかさむに連れ、所持金も底を尽きると、やがて野党と化していった。
アキと産まれたばかりの獣は砂漠を越え、国境付近の森へと向かっていた。当初、獣は虫をえさとしていた。が、体が大きくなるにつれ、ネズミやリスまどの小動物を食すようになった。体毛もしだいにうろこのように硬くなった。胸のあたりから前足がのび、それは鹿のように細かった。顔からくちばしも消え、するどい歯と、牙が伸び、しだいに熊のような顔つきになっていった。
しかし、まだそのしぐさは幼く、アキの後ろをぴったりとついて歩いくのだった。
何十人といた追っ手は、一月と経たないうちに、数名にまで減った。
「皇帝。剣闘士たちが、村々で略奪を繰り返しているとの苦情が各地からよせられています。今すぐ、帰還命令をお出しください。」
宰相エダは王の間でエイブラハムに進言した。
「エダよ。お前は、わしの父の親友だ。だから、あえて苦言も聞いてきた。だか、国も巨大になり、皇帝となった今では、わしこそが国家なのだ。わしの威厳なくして、国は安定することはない。命令を撤回などしてみろ、周辺諸国の笑いものだ。かまわぬ。苦情があるなら、損害に見合う対価を支払ってやれ。」
「エイブよ。労働はさせられても、民心は金銭で買うことはできませぬぞ。」
宰相は、幼子をさとすようにエイブラハムに語りかけた。
「だまれ。余はもう子供ではない。その呼び名は止めい。この話は終わりじゃ。」
エダは一礼すると部屋を後にした。