死闘
「ロウム至上主義の時代は終わった。これからは冥王ハデスの加護のもとゲンバ第一主義の時代だ。」
ついにロウムの領土は本国を残すのみとなった。カリスマ性を失ったエイブは、ハデスを倒すことで、再び己の優位性を見せつけようと、ただ一人、エトリアの北の山脈に飛び立った。ハデスはアキやヨワネとともに迎え撃った。自国の民にすら見捨てられた孤高の皇帝と連合の支えとなりつつある衆望の冥王との決戦が始まった。
すでに大人としての風格を備え始めたハデスは、子供じみたエイブの攻撃をしばらくかわし続けた。それは、親は子供を教育しているようにも見えたし、剣豪が相手の太刀筋を見極めているようにも見えた。
「エイブよ。お前はまだ若く未熟だ。人と共に生きるというならこの地で我と暮らそう。しかし、人にあだなすものなら見逃すわけにはいかない。」
ハデスはエイブに語り掛けた。しかし、エイブは聞き分けのない子供のように、
「人間を超えた種獄である私が、劣悪な人間と対等でよいはずがない。私と組むなら、おまえにこの地の半分をくれてやろう。」
独りよがりな論理を振り回すだけだった。
「あわれだな。人間ども手を出すな。これは、われら作られものの未来を決めるわれらの戦い。しっかり、見届けてくれ。」
ハデスはついにエイブにその牙をむいた。ハデスの鋭い熊の牙がエイブの長いキリンの首に傷跡を刻む。エイブの象の太い足がハデスの熊の体を踏みつける。2体の獣は一進一退の攻防を空と大地で繰り広げた。
人の力を超え戦いに何人も割って入ることはできなかった。それは、戦いのはげしさのためだけではない。かれらの誇りと存在意義をかけた気高き戦いだったからだ。日の出とともに戦い、日の入りとともに休息する。何日もそんな戦いが続いた。体の傷は一夜で癒えた。しかし、体力は徐々に削られていく。何度、羽根が折れ、何度足が折れたことか。
両者とも、いつしか体力の限界を迎えていた。日の出と共に、出陣した2体は空中に飛び上がると最速で激突した。両者の羽根が根本から折れる。ほぼ同時に雪の斜面の上に落ちた。ともにもつれあいながらふもとへところがり落ちた。山の中腹から、はげしい地鳴りとともに巨大な雪の塊がかれらの後を追ってきた。かれらの落ちた衝撃で雪崩がおこったのだ。どう猛な白い絨毯は、かれらを飲み込み、やがて静かになった。




