ゲンバとバフン
ヘルシャ遠征に破れたロウムをたたみこむようにゲンバ族との争いが激化すると、守りの弱くなった北方から、騎馬民族であるバフン族がゲンバへと攻め入ってきた。北の雪と氷の大地には犬たちと暮らすイヌイッショが住んでいたが、馬とともに暮らす彼らにとっては、草原もない過酷な環境よりも、暖かいゲンバの地のほうがはるかに魅力的だった。バフン族の侵入により、ゲンバ族は帝国ロウムへと堰を切ったようになだれ込んできた。
ロウム本国の強力な軍事力によって保たれていた帝国は分断され、次々とゲンバ族に凌駕されていた。この未曾有の事態にロウム内部でエイブの神格化に疑問を持つものが出始めた。
「やつは、本当に神なのか?」
「もしや、天国を追放され堕天使なのでは?」
エイブの怒りは、流入してくるゲンバではなくロウムの民へと向かった。やがて、ゲンバにも死獣がいるらしいとの噂が広まり始めた。それは、ハデスの存在を知ってというよりも、むしろ進攻の止まらないゲンバを恐れてのことだった。
死皇帝エイブと死獣ハデス。彼らの種族が、人に代わってこの地上を支配する。その時、人間はみな彼らの家畜とされるであろう。怪しげな予言がまことしやかに世界を駆け巡った。
「この世界に、死獣は他にいてはならん。」
人間の手によって産み出されたエイブは人間を最も恐れていた。そのため、死獣造りたずさわった神官達をゲンバに内通しているとして、皆殺しにした。こうして、エイブにとって唯一の脅威はハデスの存在となったのである。




