死皇帝
ロウムの神官たちは、あせっていた。歳をとっていく皇帝は、自身の死がひたひたと迫ってくる幻覚に悩まされるようになった。
「死獣の復活の秘密はまだわからんのか?」
神官長を部屋へよびつけると、叱責した。
「すでに、猿の実験では成功しております。ただ、姿かたちが元とは異なる生物になります。」
「そんなものは表に出ねばわからん。わしの命令をおぬしらが伝えれば済ことじゃ。」
エイブラハムは評議会を廃止し、改宗により神官からの政治的権力もはく奪した。こうして、独裁制が強固になったロウムに民衆は反発した。しかし、軍事力を抑えた皇帝に表立って逆らえる者は最早いない。
かつての英雄、タケサリヌス、タマリクトス、サムマルクの三人を慕う声もあったが、すでに退役したかれらに、政権を変えるだけの力はなかった。
だが、サムマルクは密かに仲間をあつめ、エイブラハムを襲った。彼はナイフで次々さされ、最後に覆面をしたサムマルクがとどめをさした。エイブラハムは苦悶と驚愕の表情を浮かべた。
「今の政治は、変えざるをえん。」
サムマルクが思わず発した言葉を聞いて、エイブラハムは最期に一言つぶやいた。それを聞いたサムマルクは身震いするとその場を足早に立ち去った。彼はそのときのことを、こう記録に載せている。
「変えざるをえん。」
と叫ぶと、エイブラハムは最期の言葉を告げた。
「あれは、恐怖や。ブルったすよ、『お前もか』でっせ。覆面してたのにバレてるやないか。」
その後、神官たちは、エイブラハムの亡骸を神殿に運んだ。エイブラハムは死んだ。しかし、代わりに邪悪な帝王が産まれた。人の体を持たぬそれは、人の心も持っていないようだった。




