舞台
アキはカード飛ばしの助手として、舞台に出た。ピエロなので、最初はわざと失敗する。壁に隠れていたところを見つかり、カードが飛んでくる。それをおどけながらも巧みによける。最後に、彼がカードを飛ばして、相手を撃退する。即興であるが、何とか舞台をやり終えた。公演が終わると、兵士たちはアキがいないことに気付く。サーカスに紛れていないかさがすが、まさか見事なカード飛ばしを披露した助手が彼だとは誰も思いもしなかった。
もともとエトリアに帰す客人だ。行方不明になったところで、何の支障もなかった。
「最初から、いなかったことにしてしまえば済むことだ。」
隊長は兵士たちにそういい含めた。かれらの任務はあくまでもハデスを連れ帰ることだった。
その夜、サーカス団から一頭の熊が逃げ出したと大騒ぎになった。兵士達も警戒してテントの中から出てこない。団員がハデスの檻の中を確認したいといって隊長のもとにやってきた。
「これは、挨拶代わりのお酒です。」
普通なら断るところだが、割引してもらった手前もある。それにいつもなら上級の士官たちにとられてしまうような、上等の酒も手に入る機会を見逃す手は無い。
「見るだけならいいだろう。」
隊長の喜々とした言葉とはうらはらに、しぶしぶ兵士がハデスの檻に案内する。
「立派な熊ですな。檻の外からではうちの熊かどうかわかりませんな。中に入って確認したい。大丈夫です。猛獣の扱いにはなれてますから。」
兵士達はハデスを熊と言い張った手前、いまさら熊ではないとも言い出せない。久しぶりの酒に隊長はすっかり酔って寝ていた。
「くさりにつながれてはいますが、気をつけてくださいね。」
そういうと、兵士はハデスの檻の鍵を外した。
「くさりの鍵はしっかり持っていてくれよ。外れていたなんてのはシャレにならないからな。」
「大丈夫です。ここにちゃんともってますから。」
兵士はポケットから一本の鍵を取り出して見せた。
「熊が行ったぞ!」
表からの声がした瞬間、案内の兵士は気を失い倒れた。
「大丈夫ですか?」
団員が兵士を起こす。
「ああ、何があったんだ。」
兵士はもうろうとする頭を振った。
「すみません、熊が突然、ここを通っていきました。どうやら、こちらは当方の熊ではなさそうです。」
そういうと、団員たちは熊の後を追いかけるように去っていった。
「死獣は無事か?」
兵士は、奥に寝ている黒い塊をみて、鍵をかけ直すと、なにごともなかったかのようにテントにもどっていった。




