旧友
ロウムとその周辺諸国では、捕虜として捕まった兵は、互いに生きて交換する慣わしになっていた。しかし、ロウムの奴隷兵は、帰国を拒んだ。市民からの抗議をおそれた軍は、敗戦したのは奴隷のせいにし、みせしめとして処刑していたからだ。
当然、サムマルクもそれが国民のためだと信じてうたがわなかった。引渡しにやってきた使者は、皇帝からの撤退命令とともに、一通の手紙をカレに手渡した。それは、タケサリヌスが彼にあてて書いたものだった。
親愛なるサムマへ
もし、おまえに勇者としての誇りがあるのなら、生きている最後の一兵まで、国に無事かえすことが大将としての役目だ。ロウムの兵として戦ったものに、できる限りのことをしてやるのだ。
わしに何かたのみたいのなら、お門違いだ。わしが手を貸せば、おまえは敗戦の将でしかなくなる。かつて、われらが語り合ったように、誰にでも希望はある。あのころの気持ちを忘れていないなら、はいつくばってでも、己のやるべきことを自分の手でなせ。
今のおぬしには、千の励ましの言葉よりも、弟子が歌っていたこの歌を送ろう。
我等の国は消ゆれども、我等の誇りは失わず。
己のために生きるより、友のために生きて行こう。
愛する者がいるのなら、
愛してくれる者がいるのなら、
君には生きていく価値がある。
両目の光は失えど、希望の光は失わず。
意地を張って生きるより、家族のために生きて行こう。
したう者がいるのなら、
したってくれる者がいるのなら、
君には生きていく意味がある。
体の自由はきかずとも、心の自由は失わず。
命の炎がつきるまで、心のままに生きて行こう。
信じる者がいるのなら、
信じてくれる者がいるのなら、
君には生きていく理由がある。
旧友タケより
手紙を読み終えると、サムマルクは泣いた。そして、彼は、エトリアの将軍に頭を下げて懇願した。
「わが兵は身分にかかわらず、一人残らず国へ連れ帰りたい。この戦の責任はすべて私にある。頼む。すべての兵の労をねぎらうことを約束しよう。」
エトリアの兵たちは、ふがいない彼の姿を見て笑った。それでも、彼は頭を上げようとはしなかった。
こうして、市民兵も奴隷兵もロームの兵は一人残らず帰っていった。
サムマルクが国へ帰ると、すでに噂は広まっていた。
「負け犬、サムマ。」
「敵に頭を下げる、はじさらし。」
港や沿道には、彼を誹謗中傷する人で埋め尽くされていた。
「サムマルク様を悪く言うでない。」
兵隊の一人が人々に向かって叫んだ。
「そうだ。われらが無事、帰還できたのもサムマルク様のおかげ。」
「われらの大将を侮辱するものは、われわれがゆるさん。」
奴隷兵たちも彼の前に立ち、口々に叫んだ。
「うちの息子を無事連れ帰ってありがとうございます。」
沿道にいた老婆が駆け寄る。その姿を見て、心無い言葉を口にしていた観衆はすごすごと引き上げていった。
「知将サムマ!万歳!」
後には、サムマルクをたたえる声だけがいつまでも響いていた。




