タケサリヌス
「神官たちは全員、敵の幻覚によるハデスの虚像におびえ、討ち死にしたそうです。」
ロウムの皇帝のもとへサムマルクから報告が入る。
「やつめ、失敗したな。」
皇帝とその側近たちは、引退していたタケサリヌスを呼び出した。
「いまさら、このおいぼれに何のようですかな。」
白髪の老人は出された椅子に腰かけると、静かに問いただした。
「おぬしの弟子が死獣をつれて逃げたことは知っておろう。」
「なにかと思えば、またずいぶんと前の話を。あやつは逃げたが、死獣はサムマルクが始末したと聞きましたがな。聞き間違いじゃったかな。」
タケサリヌスは、皇帝の真意を見極めようと、ゆさぶった。
「プラトの弟子とともにアキナイに潜伏しているという風の噂がある。知っておるか?」
「はて、出所も定かではない怪しい話。初耳ですな。」
タケサリヌスは顔色一つ変えずに、いかにも俗世間を離れた年寄りのようなふるまいだった。
「まあよい。キリシエにもなかなかの軍師がいるようだ。お調子者のサムマルクでは手に負えぬと見える。そこで、手助けをしてやってほしいがどうじゃ。タケとサムマの名コンビ復活じゃ。」
タケサリヌスは苦笑いをした。
「いやいや、あれは若気の至り。歌舞って似合うのは若い時だけです。この年になると、おだやかな暮らしが性に合っています。」
「おまえに、剣を振るえとはいってはおらん。名将とうたわれたその知恵をすこしかしてくれればいいだけだ。」
「このおいぼれに、船旅はきつうごさいます。もし、本国に攻め込むものがあればその時はてつだいましょう。」
タケサリヌスはそういいのこすと、城を去っていった。
「ふん、くえぬ爺だ。見張りをつけておいけ。」
皇帝エイブラハムは側にいた兵士に命令した。




