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死の獣  作者: 明日香狂香
3/65

勝者

 勝敗は決した。奴隷が勝った。

「殺せ!殺せ!」

 観衆の声が、巨大な波となって、コロッセオを包み込む。

 アキはためらった。

「何をためらう。われは負けたのだ。我を討ち取って名声を手にするがいい。」

 獣はうめくように言った。

「くだらん。人の評価など常に変わる。皇帝のために人を殺せば英雄。だが、己の家族のために戦えば反逆者だ。」

 アキは剣を降ろすと、獣にやさしく語った。

「では、なぜお前はここにいる。この血塗られた戦場に。」

「死ぬのは簡単だ。だが、それでは別の仲間が代わりの奴隷としてつれてこられるだけだ。」

 戦うために生かされ続けた獣には、到底、理解しがたいことだった。

「わしの体は、人に造られたものよ。記憶はなくなるが、死んでもまた生まれ変わる。同情などいらん。」


 アキはその場にうずくまる獣に背を向けると、皇帝の前へと進んだ。ここでは、勝者は皇帝と同じ名誉を与えられる。勝者は皇帝の前でもひざまづくことはない。

「なぜ、殺さぬ。」

 皇帝は座ったまま不満そうに彼に言った。

「相手はすでに戦意を失っております。これ以上の戦いは無意味です。」

 アキは闘技場のしたから皇帝を見上げながらも毅然としていた。

「民衆は血を望んでおる。民衆の望みをかなえるのが余の勤めじゃ。」

「ただ、ここの熱気にあてられているだけ。本心ではありません。」

 民衆は彼を恐れた。例え勝者であっても、今まで民衆の前で皇帝に口答えしたものはいない。ましてや奴隷がなどあってはならないことだ。

「好きにするがいい。」

 そういい残すと、皇帝は憮然として闘技場を後にした。

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