アクシデント
アキが気付いたときには、すでに女性は外に出ていた。
「娘さんはわれわれが面倒をみますので、レニポ議員、すぐにお戻りください。」
彼女は、道に停まっていた馬車に乗ると、いってしまった。
「レニポ?レニホ?聞き間違いか?」
その後もそのことが気になって練習に身が入らなかった。夕食は団員たちが自分で作る。大きな鍋にお湯を沸かしおくと、それをそれぞれで煮込見料理などに使う。それぞれの技によって食べるものが代わってくるからだ。体の柔軟性が必要なものと、力が必要なもの、動物を扱うものなどで必要とする栄養をかえなければならない。とくに動物たちは臭いに敏感だ。体臭が替わるだけで、別人と思い襲われてしまうこともある。
夜の公演が始まった。見習いのアキはテントの裏で小道具や檻の移動を担当する。舞台の袖から客席を見た。今日は休日のためか満員だ。猛獣使いがライオンを操る。ショーもクライマックスに達したとき、
「ドン!」
大きな物音が外でした。真っ先に驚いたのは、ライオンだった。一頭が舞台から飛び出し、ステージのほうへと走った。客席からは悲鳴が上がる。突然のアクシデントに猛獣使いは身動きができないでいた。すぐさま、アキは飛び出した。そして、ライオンめがけて横から飛びつくと、その巨体を押し倒し、太い腕をおさえ、首を絞めた。それは剣闘士としては、基本の技だった。ライオンは吠えたが、動くことはできなかった。
ライオンを檻に戻し、ショーは無事終わった。テントの中とは対照的に、外では大騒ぎが起こっていた。大勢の野次馬が取り囲む中、
「議員、大丈夫ですか?」
という、声が聞こえる。どうやら、馬車が転倒して、載っていた女性が放り出されたらしい。意識がない。医者が来るまで、彼女をサーカスのテントで休ませることにした。
「レ二ホ!」
昼間の少女が駆け寄る。
「いけません、お嬢様。」
連れの男性が彼女を引き止めた。




