闘技場の化け物
一体の巨大な化け物がエレベータによって地上へと運ばれた。やつの名は死獣ハデス。冥界の王の名を与えられたそれはゆうに人の倍の体を持っていた。やつは、人の手によって与えられる永遠の命と引き換えに、戦い続けることを選んだ化け物だ。
狼の牙、虎の四肢、ワシの翼に蛇の尻尾を持ったキメラ。それがやつの正体だった。
「また、皇帝とやらが来ているのか。」
化け物は、低くつぶやいた。やつは、人の言葉を理解し、発することもできた。
「相手は奴隷だ。殺してもかまわん。」
責任者は恐る恐る近づくと早口でそう伝えて、走り去った。
「これより、御前試合、奴隷戦士アキと死獣ハデスの戦いを始める。」
戦いは、太鼓とドラの音で始まった。
「わしの姿を見て逃げぬとはいい度胸だな、人間。」
ハデスは低いうなり声を上げた。
「お前こそ、なぜ人に飼われている。」
アキは様子を伺いながら、たずねた。
「わしは、永遠の命の変わりに契約の鎖でつながれておる。戦うことなど魂が尽きることにくらべたら、たあいも無いことよ。」
ハデスはアキにぬかって突進した。アキはそれをかわし、ハデスの前足に一撃を入れた。衝撃が剣を伝わり両手に響く。
「さすがに冥府の王の名にふさわしい。間単に勝てそうにないな。」
両者は互いの剣と牙を交える。ハデスはその翼で飛び上がり、強靭な虎の前足でアキを押さえつける。彼の剣がやつの喉めがけてつく。間一髪、ハデスはとびのくと、蛇の尻尾を打ち付ける。アキは横に転がり、かわすとともに立ち上がる。一進一体の攻防が繰り広げられる中、アキはハデスの背後からその巨大な背中に飛び乗ると、剣で翼を切り裂いた。キメラの苦痛の声に、客席が沸いた。
暴れ狂うその背中でアキは思いっきり振りかぶった剣を勢いよくやつの背中めがけて突き立てた。キメラは耳をつんざく巨大な雄叫びを上げ、倒れた。