表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
死の獣  作者: 明日香狂香
14/65

訪問者

 北の国境近くで尾根伝いに大規模な山狩りが行われた。もっとも、これは、囮である。山の尾根部分の傾斜には大規模な軍の展開が難しい。逃げる相手には、行き場のない谷へと追い詰めるのが戦の定石である。

 大規模な捜索とは別に、少人数の捜索隊が密かに谷を探す。

 アキたちは次第に追い詰められていった。危険をおかして国境を超えるか、この国にとどまるか。

「ヨワネ。君だけでも国境を越えて逃げろ。」

 アキの言葉に彼はその黒い顔を横に振った。

「もう無理だ。つかまれば、奴隷になるか、死刑になるだけだ。」


 彼らは小川の近くの空き家に身を潜めた。このあたりでは猟に出て、熊に襲われるものも少なくない。そこもそのようなものの家なのだろうか。


「ごめんください。」

 若い女の声がした。

「わしが出よう。」

 ヨワネが玄関へ向かう。

「なんのようじゃな?」

「空き家に人の気配がしたものですから。あなたは、この村のものではありませんね。」

 粗末な着物を着た娘が恐る恐る聞き返した。

「ああ、山に薬草を取りに来たが、道に迷ってここに着いた。少し休ませてもらおうと思ってな。留守のようだったので、勝手に上がりこんで、家人を待たせてもらっていたところだ。」

 ヨワネは気取られないように、冷静に対応した。

「そうでしたか。ですがここは空き家です。家人は猟に出たまま1年ほど帰ってきていないそうです。」

 娘も若干顔をこわばらせながらも、やさしく話をつづけた。

「おひとりですか?ほかに、お仲間とかは?」

「病人が一人おってな。奥で休んでおる。うつるといかんので挨拶は遠慮願う。」

 ヨワネは薬草の束を見せながら、それで奥の部屋の方を指した。

「そうですか。今、都からきた軍が反逆者を探しに大掛かりな山狩りをしています。もし、なにかお役にたてることがあれば遠慮なくおっしゃってください。このあたりの山は庭のようなものですから。」

 女はそう言い残すと帰っていった。ヨワネは女の残り香に鼻をひくひくさせながら、彼女が見えなくなるまで見送った。


「集落のものか?」

 アキの問いに、ヨワネは首をよこに振った。

「村人を装っちゃいるが、あれは街のものだ。やつからはじゃ香の匂いに混じって龍涎香の匂いがした。あれは、非常に高価な海のものだ。こんな山奥の娘がつけるような代物ではない。」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ