人の軍
「よし、決めた。エダよ、役立たずの剣闘士どもを引き上げあせろ。サムマルク、きさまが軍の精鋭率いて討伐にいけ。できれば死獣は捕らえたいが、場合によっては殺してもかまわぬ。」
皇帝の言葉に、細身の男は一礼すると、兵士達とともに部屋を出ていった。
皇帝エイブラハムは人払いをすると、隣の部屋で控えていた神官長を呼んだ。
「ジョフカ、聞いての通りだ。死獣の不死の秘密はどこまでわかったのだ。」
皇帝の言葉に彼は深く頭を下げると
「おそれながら、申し上げます。やつの秘密はその血にあると思われます。すでにいくつかの動物でためした限りでは、再生に成功しております。ですが、生まれ変わりのたびに記憶が消えます。ただ、それも成長に伴い徐々にですが一部回復することまでは突き止めております。」
「わしもいつかは老いる。それまでに、なんとしても完全な復活の方法を調べるのだ。わしにはまだまだやりたいことがある。」
皇帝は顔を上げ、宙を見つめた。
「はい、その時こそ、あなた様は、真の死皇帝となられるでしょう。」
サムマルクは、直ちにタマリクトスからアキたちの正確な位置を聞き出した。
「やつらが、よほどの馬鹿でないかぎり、すでに、移動しておるはず。」
サムマルクは、手分けをして、彼らの行き先を探させた。
「国境を越えられると厄介だ。その前に見つけ出すのだ。だが、見つけても深追いはするな。本体の合流を待て。」
サムマルクには秘策があった。
「やつらは、仲間の命を大切にする。逃げ続けるには、手引きするものが必要になるはずだ。」
彼は兵士達とは別に、仮面をつけた女を呼んで耳打ちした。
彼は、捜索隊とは別に、百人規模の軍を3つにわけ、異なったルートで北へと進めた。
「一人を相手にたいそうなこった。」
火災により、すっかり広くなった大通りに、進軍を見送りにきた老人がぼそりとつぶやく。
「サムマ!サムマ!」
将軍の名を叫ぶ声に混じって、別の声が響く。
「軍隊に勝利を。」
それを聞いた、サムマルクは
「罪人といえども命は大事や。戦ちゃいま。話し合いでんね。」
と、おどけながら答えた。