信念
「はあ、はあ。さすが、死獣を倒したというだけある。もし、お前がこのまま死獣とともに都にもどるというなら、お前の命を救うよう皇帝に進言するが、どうだ。」
タマリは、肩で息をしながら、アキに問いただした。
「無駄なこと。やつが、反逆者と決めたのだ。するわけがない。それに、我が祖国と同胞の命を奪ったやつに忠誠をつくすなどできぬ。」
アキもまた、おおきく肩を上下させながら、タマリをにらみみつけたまま答えた。
「お前は、太刀筋がいい。剣の師匠は何と言う。」
「タケサリヌスだ。」
その答えに、タマリは構えていた剣を降ろした。
「かつて、国内一の名将とうたわれたタケ殿であったか。すでに現役を退き、後進の育成をしていると聞いた。奴隷というので、おぬしを少々見くびっておった。では、改めて全力で仕留めにまいろう。」
タマリの構えが変わった。剣を斜め下に向け、半身に構える。そして、そのまま矢のようにまっすぐ突っ込んできた。彼は次の瞬間、大きな剣を下から上に振り上げると、勢いそのままに体を回転させ、アキの腹部めがけて水平にはらった。
「ガチン。」
それは、アキが胴に添わせた剣にぶつかると、真っ二つに折れた。二人は離れて間合いをとる。
「なぜ、反撃せぬ。」
タマリは不服そうだった。
「我が剣は、殺しのためのものではない。」
アキは重い剣を引きずりながら返した。
「いつまで、そういっていられるかな。万一、俺に勝てたとしても、そんなことでは、この先、いつか死ぬぞ。」
「かまわん。己が生き延びるために、相手の命を奪うことはできぬ。どちらの命が尊いかなど、人が計れるものではない。だが、お前が仲間にまで手をだすというなら容赦はしない。」
タマリはクルリと反転すると、
「この剣では、もはや戦えぬ。わしの負けだ。サムマルクには気をつけろ。やつには道理は通用せん。」
そういって、山を下っていった。