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「これぞ!ファンタジーって感じ!」
ロイ様についていき、屋敷の外に一歩踏み出すと、そこは湖の上でした!
森に囲まれた神秘の湖って感じ!
その湖の上に、ドアが一枚立っている。
どこにでもつながるドアらしい。
館の外観をうかがい知ることはできなかった。
ちょっと残念。
湖の水の透明度は高く、下を泳ぐ魚が見える。
すごい!きれい!
水の上を歩けるのに、触れるっていう不思議!
膝をついても、落ちていかない。濡れもしない。
ふっしぎー!
クロもはしゃいで、跳ね回っている。
「魔物を倒すんでしょ?どこにいるの?」
「ここです」
ロイ様は、足元を指差した。
「どこ?」
「ここです」
自分の足元を見る。
下を泳ぐ魚が、集まってきた。
「あの、もしかして」
「魚は、水面にいる虫を食べたりしますね」
「た、退避!退避ー!」
私はあわててドアの中に逃げこんだ。
ロイ様は優雅に歩いている。
その後ろではまだ、クロが遊んでいた。
「クロ!戻って!」
私の声が届いたのか、クロは走ってくる。
「ロイ様も急いで!」
彼は歩調を早めることもなく、呑気に歩いているけれど、その足元には黒い影が迫っている。
「ロイ様、下!」
「問題ありません」
次の瞬間、ざばん、と大きな音を立てて、魚が飛び上ってきた。
「ロイさまぁぁぁあ!」
自分の背丈より大きな魚が飛び出してきて、ロイ様は消えた。
そして、巨大な魚は水面に叩き付けられ、ロイ様は空からすとんと落ちてきた。
「ええええ……」
「問題ないと言ったでしょう」
魚は、水中に戻ることなく、水面の上を跳ね回っている。
「マスター、使役しているゴーレムに命令を」
「あっ!そっか。クロ、攻撃!」
クロは、きょとんとしている。
「えっと、ひっかけ!たいあたり!」
相変わらずのきょとん顔である。
「マスター。指示は、的確かつ明確に。この場合は、「殺せ」が適当かと思います」
「すごい具体的な単語だ」
「マスター、指示を」
「クロ、その魚にとどめをさして」
クロは、理解したとばかりに、にゃあと一声鳴き、爪でエラの部分をひっかいた。
それだけの行動なのに、さくり、と、頭が体から離れた。
「ええええ」
すごい切れ味だ。
私がびっくりして固まっていると、クロは褒めてと言わんばかりに頭を摺り寄せてくる。
「クロってすごいんだね。びっくりしちゃった」
「マスターが自ら作られたゴーレムです。このくらいできないと困ります」
「そ、そうなの?」
「はい。我がマスターは、ゴーレムマスターなのですから」
ロイ様は、太陽のような笑顔でほほ笑んでいた。
相変わらず、顔がいい!
「それで、これ、どうしようか?」
「持ち帰ります。しばらくは白身魚が続きますが、よろしいですね」
「これ、食べるの?」
「えぇ。おいしいですよ」
「そうなんだ」
「食糧以外にも、素材として利用できます」
ロイ様は、帯剣していた自身の剣で、さくさくとさばき始めた。
うわー、マグロの解体ショーみたいだ。
あっという間に、三枚おろしにしてしまった。
しかし、こんな大きな切り身をどうやって持ち帰るんだろう。
骨と皮も持って帰るつもりなんだよね。
そう思いながら見ていたら、ロイ様は大きな布をどこからか取り出した。
布には、魔法陣が刺繍してある。
「それ、なに?」
「魔法の布です」
「魔法の布」
そのままのネーミングセンスに笑う。
いや、黒猫にクロと名付けた私が笑えた立場ではなかったか。
ロイ様は布を広げて、その中心に切り身を置く。
すると、あっという間に巨大な切り身は消えてしまった。
「魔法の布だ!」
「さっきからそう言っているでしょう」
「どこに消えたの?四次元とか?」
「冷暗所です」
「なにそれ?」
「あとでご案内いたします。外出先で得たものは、こうやって移動させるんです」
「なるほど。便利ですね」
よくわからない謎技術がいっぱいの世界だ。
純粋にすごいと思う。
湖に浮かんだ扉をくぐり、屋敷に戻る。
「チュートリアルは以上です」
「え…、うそ…」
「チュートリアルは以上です」
「唐突すぎる!そして、全体的に説明不足が否めない!」
壮大だ。
壮大すぎる。
なんて壮大なゲームなんだ。
そして、突然、目の前が真っ暗になった。