表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/47

4


キース様に会いたい。


結果的に、その願いは叶ったわけだ。

「会う」という願いは叶えられた。


キース様が崩れた後には、白色のさらさらした砂が残った。

これがキース様だったものだと思うと無下に扱うことができなくて、なんとなく、掃き集めて空っぽの壺に入れた。

その砂の中に、小さな赤い石が混ざっていたのに気付いたのは、偶然だった。


「ロイ様。これ、何?」


彼に見せると、まるで御光が差したかのような雰囲気になる。

なにこれ?

何仕様なんだ、これ?

そして、無言のまま、赤い石を私から取り上げて、それを飲みこんでしまった。


「ええええええ」


私の驚きを無視して、ロイ様は元の優しい微笑みに戻る。


「ありがとうございます」

「えぇ……」


あれが何なのか説明してほしかった。

というか、勝手に取り上げて、挙句の果てに飲み込むとか。

なんなの、この人。


「マスター」

「はい!」

「もう一度、挑戦しますか?」


ロイ様は、失敗した私を励ますでもなく、怒るでもなく、淡々とこう言った。


「もう一度、挑戦しますか?」


脱線したのは、私だ。

とりあえず、今は、ロイ様の願いを叶えよう。

かわいい猫をつくろうと思う。


「もう一度、挑戦しますか?」

「はい。もう一度、お願いします」

「わかりました。では、もう一度初めからやり直しましょう」


彼がなぞる手順は一緒だった。

集める素材も一緒、置く場所も一緒。


「できました。次はマスターの番です」


話す言葉も一緒。


「ここに手を当てて、イメージしてください」


私は、大人しく手を当てた。

魔法陣が金色に光る。

ここまでは一緒。ここからが本番。


「想像力が力を生み出します。マスターが作りたいものを想像してください」


ぐだぐだやってると、手伝ってくるのが分かっていたので、さっさと済ませよう。


「マスターは何を作りたいですか?」

「かわいい猫を作りたいです」


それから私は、自分の願望を言った。

猫なんて飼ったことないから、全部想像だ。


「かわいい黒猫。目は金色で、ちょっと生意気だけど、ものすごく甘えん坊で、面倒見が良くて、たまに素行の悪い黒猫。その黒猫を枕にして寝るの。きっと気持ちいいと思う」


私の想像を全部言い終えるとすぐに、魔法陣の光は強くなる。

思わず目を閉じた。

今回は、風は吹いてこない。

まぶた越しでも分かるくらいの強い光が消える。

おそるおそる目を開けると、前回キース様がいた場所には、猫がちょこんと座っていた。

毛は黒くて、瞳は金色で。

ただし、私の知っている猫とは大きさが違う。

なんかこう、全体的に大きいような気が。


「おめでとうございます」


ロイ様は、拍手をして賛辞を述べる。


「おめでとうございます。素晴らしいゴーレムができましたね」

「これって、猫?」

「素晴らしいゴーレムができましたね」

「ロイ様には、猫に見える?」

「素晴らしいゴーレムができましたね」


あ、そう。

答えられないやつね。

わかった。自分で解決する。

猫って、もっと、こう、小さくなかったかな?

私が魔法陣から手を離しても、大きな黒猫は砂になることはなかった。


「近づいてもいいかな?」

「大丈夫です。ゴーレムは、自分の主人が誰なのかを教わらずとも知っています」

「そうなんだ」


これは、猫というよりライオン?いや、たてがみがないから、ヒョウかな?

サイズ的にはそのくらいだろう。

とにかく、よく知る猫のサイズではない。

おそるおそる手を伸ばしてみる。

噛みつかれたり、引っかかれたりするかとびくびくしていたが、そんなことにはならなかった。

首のあたりを触ると、つやつやの毛並みが気持ちいい。


「名前をつけましょう」

「名前?」

「はい。使役するのであれば、呼び名は必要かと」


ごろごろと喉を鳴らす、大きな黒猫。

その振動の大きさにびっくりして、思わず手を離してしまった。

すると、黒猫は自分の体を摺り寄せてくる。

おおおおお。

これは、思った以上にかわいいかも。

額のあたりを撫でると、耳がくたんと下がる。

喉のごろごろは止まらない。

終いには、ごろんと横になり、おなかを見せてくる。

我慢できなくて、全身をわしゃわしゃしてしまった。

これはいい……!


「猫って、どういう時に喉を鳴らすか知ってる?」

「……嬉しい時や要求がある時です」

「そうか。じゃあ、名前付けなきゃね。クロ、とか?」


見たまま、そのままの名前を言ってしまった。

すると、ピコン、と音が鳴り、私の目の前に金の輪っかが現れた。


「え?」

「マスター、それを手に取ってください」


言われるがまま、金の輪っかをつまむ。

輪っかはそのままぽろんと外れて、くるっと向きを変えて、上手いこと私の手首に収まった。


「これは?」

「ゴーレムマスターの証です」


いきなりものすごい単語が出てきたぞ。

よく見ると、内側に模様が彫ってある。

外して見てみようと思ったら、外すことができなかった。


「ちなみにそれを外すことはできません」

「なにそれ!呪いのアイテムじゃん!」

「呪いではありません。ゴーレムマスターの証です」

「ゴーレムマスターって何?」

「無から有を生み出す者。作られし命を従える者です」


いきなりのファンタジー展開に、脳がついていかない。

ごめん、ロイ様。

よくわかんないから、とりあえずもういいかなって感じです。

勇者でもなければ、魔王でもない。

ゴーレムマスターね。

よくわかんないなぁ。


「それで、これから何をすればいいの?」

「屋敷の外に出て、魔物を倒しましょう」

「魔物を倒す」


そういうイベントなんだろうと、素直に指示に従うことにした。

ゴーレム作って、敵を倒すイベント。

倒したら、レベル上がるのかな?


「それでは参りましょう。準備はよろしいですか?」

「準備って、何をすればいいの?」

「準備はよろしいですか?」

「準備の仕方を教えてください」

「準備はよろしいですか?」


準備がなんなのかを教えてくれないことは分かった。

こういう時の定型文みたいなものなんだろうな。

今からいくぜ、おらぁ!みたいな感じ?

足元の大型猫に聞いてみた。


「準備って何か知ってる?」


すると、大型猫はとことこと歩いていき、何かを口にくわえて持ってきた。


「これが準備?」


にゅあ、と鳴く大型猫。

よくやったと、頭を撫でる。ご褒美は大事だ。

クロの口から、手のひらサイズの手帳を受け取る。

よだれでべったりだったので、あまり触りたくないが仕方ない。

適当な布を見つけて、それでふいた。

手帳を広げると、そこには、私の名前が書いてあった。


「こ、これは!これは、念願のステータス確認できるやつじゃないか!!」


よくやった!と、クロを思いきり撫でまわす。

やっぱり、あるじゃないか!

こういうのが欲しかったのだよ。

なんだよ、ロイ様使えないなぁ。


「謎ウインドウはそれっぽいのに、ステータス確認は手帳?なんでこれだけアナログ?」


しかも、安っぽい手帳だし。

その最初の数ページは空白になっていて、途中に私の名前が載っていた。


「名前  ユーリ

 職業  ゴーレムマスター



 体力  ※※※/※※※

 魔力   ―∞/―∞

 




               」



内容、これだけ?

空欄多いし、体力も魔力が表示されているだけ。

っていうか、魔力の欄の「―∞」って何?

数値がマイナスぶっちぎってて、もはやお団子に見える。

次のページには、ロイ様の名前があった。

全てランクで示されていて、このあたりはゲームとだいたい同じで、なんだか安心する。


「名前  ロイ・マクスウェル

 職業  執事

 所属  ※※※

 

 練度  90

 体力  A+

 魔力  A

 筋力  S+

 知力  A

 機動  A+

 運   B      


                」



職業が、執事?

剣士じゃなくて、執事?

この辺はよくわからないな。

もうちょっと具体的数値が欲しかったけど、まぁ、無いよりはましだ。

次のページは、大型猫のページだ。


「名前  クロ

 職業  猫

 所属  ユーリ

 

 練度  1

 体力  C

 魔力  C

 筋力  B

 知力  B

 機動  B

 運   C      


                」

 


職業が猫になってる!

今から戦場に行くのに大丈夫か、私のパーティ。

執事と猫とか。


「準備はよろしいですか?」


ロイ様から、催促が来る。

これを見るかぎり、ロイ様も私のパーティに参加しているってことでいいんだよね?

職業が執事だけど、闘う執事なら問題は無い。

問題は、所属が明らかになっていないこと。

ちゃんと私を守ってくれるだろうか?


「もう一体くらい作ってもいいですか?」


ピコン、と音が鳴り、謎ウインドウの選択肢から、「いいえ」が消えた。

え?なんで?


「準備はよろしいですね?」

「え‥‥」


「よろしいですか?」から「よろしいですね?」に変更になった!

うわぁ、圧が強い。

こんなこともできるの?

こわっ。


「準備はよろしいですね?」

「はい」


私は彼に従うしかなく、手帳1冊だけを持って、大人しくロイ様の後ろをついていった。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ