表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/47


友達無し。

学校では、いつも一人。

どうやってコミュニケーションをとったらいいかわからないという、典型的なコミュ症。

ネットの世界に入りびたり、趣味はアニメとソシャゲ。

遠征行ったり、課金するためにコンビニでバイトしてた。

コミュ症っていっても、そのくらいはできる。

本人は一般人のつもりだけど、隠しきれていないオタク。

それが私だ。

オタクだけど、いわゆる、腐女子ではない。

別に、男同市の恋愛を否定しないけど、そのポジションには自分がなりたいっていう、いわゆる夢女子というやつ。

私の本棚には、そういう本が何冊も並んでいるし、親には見せられないような薄い本もたくさん並んでいる。

私が死んだら、この本のことがばれるかと思うと、おちおち死んでもいられない。


そんな私にも、転機は訪れるものである。


コンビニでのバイトが終わり、さぁ帰ろうと家路についた。

帰り道では、ソシャゲの周回をしながら帰るのが日課になっていた。

いつものように、回復したスタミナ分の周回は終わり、そういえば、新規キャラクターのピックアップ召喚期間も中盤に入るころ合いだな。

石も貯まったことだし、一回くらい引いておこうと思った。

宵越しの石は持たない主義!

おまじない代わりの乱数調整をして、さぁ、いよいよ単発で回すぞ!

一回目、はずれ。

二回目、はずれ。

三回目、低レアのキャラ。もう持ってる。

四回目、はずれ。

期待した分、外れ装備をひくと、ものすごくがっかりする。

これが最後の一回。

なけなしの最後の一回!


「頼む!いざ、尋常に!行けぇぇぇええ!!!」


誰もいないのをいいことに、私は、小さく叫んで、手を振り上げ、画面を軽く押した。

ぽちっとな。

ルーレットが回る。

金色の光が回る。

お!まさか!

召喚陣の中に、流れ星が落ちてくる。

まさか!まさかの!

出てきたカードが金色に変化した。

これは!まさかの高レアカード出現の兆し!

キャラクターは誰だ。

誰だ!誰だ!

このとき、スマホの画面ばかり見ていたのがいけなかった。

歩きなれた道だからと、気をつけていない自分が悪い。

金色のエフェクトが消えそうになるまさにその時、いきなり自分の体が飛ばされた。


「うぐっ」


痛みと衝撃と、体が地面に倒れたときに頭をしたたかに打ったようで、ものすごく頭が痛い。

頭を押さえようとして、手にスマホを持っていないことに気づいた。

左手は頭を押さえて、スマホを探そうと目を開ける。

幸いにも、私の近くに転がっていた。

レアキャラは何だったの?

右手を伸ばす。

あと少しで届かない。

体を動かそうとすると、ものすごく痛くて、死にそうだ。

もう少し。

あとちょっと。

歯をくいしばり、痛みをこらえながら指を伸ばす。

ようやく指が一本だけ引っかかる。

ぐっと力を込めて、画面をこちらに向けることに成功した。


「だれ……?」


割れた画面の中に映し出されたのは、新キャラでも既存キャラでもなく、全く知らないキャラクターだった。

だれですか、あなた。

そんな前情報、聞いてないんですけど。

運営の公式サイトに行かなくちゃ。

そこからはもう覚えていない。


目を開けたら、そこは、私の知らない場所だった。


『おめでとうございます。あなたは、やかたあるじに任命されました』


目を開けると、目の前に、テレビの画面が浮いている。

パソコンのウインドウみたいだなぁ、なんて思いながら、体を横にすると、その画面もついてきた。

めっちゃ邪魔。

払うようにすると、画面が横に移動した。

なにこれ?

首を横に動かすと、画面も一緒に横に動く。

なんだこれ?

そういえば、ここどこだろう。

体を起こして、周りを見る。

私は、どこかの部屋みたいな場所にいて、床に寝ていたらしい。

バイトが終わって、家に帰る途中だったはず。

さっきまで夜だったのに、周りは明るい。今は昼なのか?

あんなに痛かった頭も、今はなんともない。

むしろ、すっきりしているくらいだ。

そうだ!スマホ!

私の命よりも大切なスマホ。

画面割れてたらどうしよう。

ソシャゲのデータ移行だってしてないんだから。

また初めからやり直すなんて、絶対に嫌だ。

いくら課金したと思っているんだ。

冗談じゃない。

辺りを見てみても、スマホどころか、私のカバンすら落ちていない。

というか、何もない。

ここどこ?

そして、さっきから視界の端にずっと移りこんでいるウインドウ画面みたいなもの、ものすごく邪魔なんですけど。

とりあえず、さっきの要領で、指で掴む真似をすると、意外にも自由に移動できることが分かった。

そのまま、自分の目の前に持ってくる。

そういえば、さっき変な文章が表示されてたなぁ、と思い、もう一度画面をよく見てみる。


『おめでとうございます。あなたは、やかたあるじに任命されました』


館?主?

館と言われれば、ここはどこかの部屋のようだ。

なにもない、ただの部屋だが。

本当に何もなくて、まるで、引っ越しの内覧にでも来たかのような気分にさせてくれる。

文章は読み終わった。

どうすれば、次の文が表示されるんだろう?

とりあえず、画面を押してみた。

ピコン、と軽い音が鳴り、画面に変化があった。

なんだこれ。

なになに。


『前回からの続きを選択できます。

  つづきからはじめる

  はじめから         

                

                』

   

なにこれ。まるっきりゲームの選択肢じゃないか。

夢か?

そうか夢か。

こんな夢を見るなんて、私もゲームのしすぎだなぁ、なんて思いながら辺りを見回したが、ヒントになりそうなものはない。

部屋には、小さな窓が一つあったが、窓の外には木しか見えないし。

部屋から出る扉があるにはあるのだが、どういうわけか開けることができない。

ドアノブが回らないのだ。

押してもダメなら引いてみようと、横に引いてみたがまるでダメ。

諦めて、画面に戻る。

前回の続きって、一体、どこ?

もしここが敵地で、モンスターやゾンビだらけの世界なら、丸腰の今の状態では即死は確実。

夢なら、もっと楽しみたい。

怪物に襲われて終わりなんて、つまらないもの。

しかし、「はじめから」を選んで、レベル1の状態から成りあがるのは大変そうだ。

というか、「つづきから」という選択肢があるということは、以前、誰かがやっていたのだろう。

他人の「つづき」というのも気になる。

もし、資源やアイテムを使い果たしていたら、その続きを引き継ぐのは非常に危険ではないだろうか。

もし、ラスボス手前のデータだったら?

先輩がやりこみすぎて、やることがやることがなくなっていたら?

リスクが大きすぎる。どうしよう。


「ん?これって……」


目の前のウインドウをよくよくみると、あることに気づいた。

選択肢の下の空白が、異様なまでに広いのだ。

これは、もしかして。

選択肢に触らないようにして、そっと空欄に触れる。

そして、そのまま下にゆっくりを下げた。


「やっぱり!」


選択肢には続きがあった。


『前回からの続きを選択できます。

  つづきからはじめる

  はじめから         

                




  つよくてニューゲーム』


なんと!

新しい選択肢「つよくてニューゲーム」が爆誕したではないか!

隠し要素か!

これより下に下がっていかないところをみると、これが最高の選択ではないのだろうか。


「つよくてニューゲーム一択!」


やさしく押すと、ピコン。と、音が鳴り、画面の文字が変わる。


『チュートリアルをみますか?

  みる

  みない          』


もちろん、「みる」を選択。

ピコンという音と同時に、かちゃり、と鍵の開く音がした。

これで、やっと進めることができるようだ。

ドアノブに手をかけると、さっきまで鉄のように固かったノブが、いともたやすくまわる。

静かに開いていく扉の向こうを、そっと覗く。


「部屋を出るとまた部屋とは、これいかに」


そこには、だだっぴろい部屋が広がっている。

誰もいない。

動くものは、何も見えない。

このゲームは、一体どんなゲームなんだろう。

ゾンビを倒すのか、街を作るのか、モンスターを討伐するのか。

予備知識一切なしで挑む恐怖といったら、この上ないものだね。

ドキドキしながら部屋を出る。

目の前のウインドウには、何も表示されていない。

こういうのって、自分のステータスとか確認できないものなんだろうか。

ウインドウを何度触ってみても、何の変化もない。

ならば、こういう時はお決まりのアレだ。


「す、ステータス!」


何も起こらなかった。

恥ずかしい!

なにこれ。めちゃくちゃ恥ずかしいんですけど!

えぇい。ここまでやったんだから、もう恥も何もない。


「オープンウインドウ!」

「メニュー!」

「設定画面!」

「プロフィール!」

「ステータス!」


何の変化もおこらない。

どういうことだ!

私は両手で思い切り床を叩きつけた。

悔しい。

こんなことってある?

夢なら、もっと合理的にいこうぜー。


まぁ、とりあえず、目の前の画面が邪魔なので、横にスライドさせ、部屋の探索に戻る。

今度は、扉が二つか。

最初だし、好きな方に進んでいいのかな。

左側に進んでみようかな。

今度は、普通に開いた。

また部屋。

しかし、中には物が置いてあった。

小さなチェストに本棚。部屋の窓際に、小さな机と椅子がひとつ。

とりあえず、窓の外を確認する。

相変わらず、木しか見えない。

チェストの中を確認。

中は空っぽだった。

本棚に詰まった本を一冊、手に取ってぱらぱらとめくる。

よかった。中身は日本語だ。読める。

内容は、ファンタジー小説だろうか。

伝記や紀行の文字のついたものが多い。

あとは、辞典や文集。背表紙だけで判断すると、資料的なものが多いのだろうか。

とにかく、字が多く、細かい。

これを読めと言われたら、地獄だろうな。

こういうところに謎のアイテムがあったりするんだろうと、一冊ずつ手に取って調べてみたけど、何もなかった。

本棚の裏に、隠し扉みたいなものもなかった。

私の勘繰り過ぎだったらしい。

さて、他には何もないようだ。

チュートリアルって、こんなだっけ?まあいい。

次の扉を開ける前に、一回戻ってさっき開けなかった方の扉を開く。

そこも部屋になってはいたが、部屋の中央に椅子が一つ、ぽつんと置かれているだけだった。

なに、この部屋。

とりあえず、さっきの本棚のあった部屋に戻って、その先へ進む。

その先は、廊下になっていた。

やかたというだけあって、作りは洋館風なのだろうか。

板張りで、日焼けしたような色になっている。

結構古い感じなのかな。

でも、ほこりっぽくはないし、ごみもおちていない。

壁は、板そのままになっている。壁紙とかないわけ?

全体的に、特に痛んでいる様子もない。

どんな世界観なんだ。

ヒントをくれ、ヒントを!

攻略サイトはいずこ!

部屋を一歩出ると、視界の脇に変化が起こった。

例の謎ウインドウに文字が表示されている。


『従者をよびますか?

  よぶ

  よばない    』


従者?

私は、館の主になったのだから、従者もいるのか。

迷わず「はい」を選択した。

すると、廊下に人が現れた。まさしく、言葉の意味そのまま。

何もなかったところに、いきなり人が出現したのだ。

その姿を見て、私は絶句した。


「初めまして、マスター」


まさか、声まで一緒なんて!!

長身痩躯、黒髪に黒曜石の瞳を持つ、最高レアのキャラクター。

剣士ロイ・マクスウェル。

容姿端麗、品行方正、家事万能だが、何かあれば物理で解決しようとする謎のゴリラ属性の持ち主。

戦闘での使い勝手の良さ、そして、資源を馬鹿みたいに食う大食漢キャラで女性のみならず男性からも絶大な支持を得る、私がはまっているソシャゲの広告塔にもなっている美形キャラが、目の前に立っていた。


「な、なんで!」


私が、バカみたいな叫び声と一緒に疑問を口にすると、彼はこういった。


「初めまして、マスター」

「え?」

「初めまして、マスター」

「あの」

「初めまして、マスター」


太陽のような笑顔で、何度も同じセリフを繰り返す。


「初めまして、マスター」

「初めまして、マスター」

「初めまして、マスター」


あー、これ、完全にバグだ。

というか、決められたことしか喋らないところをみると、ゲームの世界かな、これ。

ゲーム内でも実現しなかった、まさかのフルボイス実装なのはうれしいんだけど、こういうのって、なんか違う。

同じことしか話さない。

事務的な動きしかしない。

これは、何とも。

いやはや、困った。

こちらから話しかけても、同じ返事しか返ってこないので、私は口を閉じた。

確かに、ゲームとかって、何度も同じセリフを話すのは普通だけど。

だけれども!

実際に目の前にいるんだぞ。

これが夢なら、私の想像力の無さにあきれて笑ってしまう。

物は試しと、手に触ってみた。

本物の人のような触り心地だ。

爪も手のひらのしわも、指紋さえも再現されている。

まばたきだって、ちゃんとしている。

向こうが動かないことをいいことに、ぐるっと一周してみた。

まるで、生きてそこにいるような感じがする。

手首で脈を確認してみると、ちゃんとあった。

手が温かいので、体温もちゃんとあるんだと思う。

髪の毛も本物っぽいし、生え際だって、人のそれと見分けがつかない。

あまりに事務的なことしか言わないものだから、いたずらしてやろうとも思ったが、やめておいた。

人としての倫理に関わる。

うん。あとで問題になっても困るし、やめておこう。

さて、一通り確認したところで、私はあることに気づいた。

謎ウインドウに、言葉が表示されていたのだ。

目の前の衝撃が大きすぎて、すっかり忘れていた。

表示されている言葉は、彼が話している内容だった。


「初めまして、マスター」


見なくてもわかるって。

選択肢は無いみたいだし、会話を進めるためにも、ウインドウをタッチする。

ピコン、という音と共に、彼は違う言葉を話し始めた。


「あなたは、我が屋敷の主に任命されました」





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ