(5)準備 ベルディナ
現在:修正第3稿目(2008 09 26)
冒険者相手の仕事斡旋所に掲示されていた依頼はどれも似たり寄ったりの内容が殆どだった。
「無駄足かね、これは・・。」
ベルディナはため息をついた。
ベルディナの希望では、出来れば今回は護衛関係の仕事は避けたかった。前回の護衛の仕事は依頼料が他とは比べて羽振りが良かったものの、その報酬は必要経費に消えてしまったことからこの手の依頼で収益を出すことは難しいと考えるのが妥当なところだ。
ならば、なるべく経費がかからずにそれなりの報酬を支払う依頼を探そうとするが、残念ながらそのような夢物語のような依頼は滅多に舞い込んではこないし、舞い込んできたとしても非常に競争率が高くなるだろう。
実力に物を言わせてぶんどってこれる自信はる。しかし、そんなことに労力と時間を割くぐらいなら多少羽振りが悪くてもすぐに応対できるものを選ぶ、というのが彼が今まで通してきたスタイルだった。
ありていに言えば、面倒を省くだけのことだが、今まではそれでうまくいっていた。そう、今までは。
一般の依頼掲示板とは別に設えられている王国政府からの依頼を掲示するボードには普段は殆ど何も貼られていないはずだ。
貼られているにしても、それは日雇い事務員の一般公募であったり、書簡の翻訳者を募るもの、予備役の兵士の募集など特に魅力に感じない物が多いが、今は少しその様相が異なる。
そこに貼られている依頼書には大きな文字で、【傭兵求む】と記載されている。その内容は、地方に出没する魔物から村々を防衛することだ。任期は1年以上。王宮からの給料と危険手当が支給されることは戦時中の傭兵と大差ない。
「兵士が不足してるってことか。剣呑な話だぜ。」
募集人員は50人程度だが、掲示されたのはつい先日となっている。
この様子では、短い期間で幾度も募集をかけていることが伺え、おそらく、相当な人員が必要となっていることは明らかだ。
現在の国家の殆どは常備軍を持つ。しかし、平時にはその数は随分と削減され、臨戦時には間に合わせの兵士として冒険者を傭兵として雇うのは当然のこととなっている。ベルディナはそういった戦争に関わったことはないが、傭兵の中でも国家から英雄として認められた者もいることは知っている。
ミリオンなら、おそらくは10年前の戦争を経験しているだろう。10年前、スリンピア王国とガルフィス帝国の境界で起こった小競り合いはそれほどの規模にはならなかったが、スリンピア王家に忠誠を誓う騎士の名家が多く徴収されたことは記憶に新しい。
スリンピア王家に属する騎士の名家、プロミネンス子爵家からもおそらく若い騎士が戦場に送られたはずだとベルディナは予想している。
ミリオンはそのことについてかたくなに口を閉ざすが、おそらくはその戦争で見たくもない現実を目の当たりにしてしまったのではないだろうか。
ならば、相手が例え魔物であったとしても、傭兵として王国の兵になることに抵抗を覚えるのではないか。いや、そもそも名家であるプロミネンス家の嫡子が傭兵となることは実家の方が許さないかもしれない。
「どちらにせよ、レミーとユアを傭兵にやることはできんか。グリュートに殺されちまうぜ。」
なら、どうしたもんか・・・とベルディナは憎々しげに掲示板を見上げる。その視界の隅に、僅かに彼の興味を引くものが移った。
「荷車の護衛か・・・依頼主は・・魔法ギルド・・。」
魔法ギルド。この言葉を口にして彼は自分の胸中に今だ濁りがあることを自覚した。もう随分と経つってのに、俺もなかなか根に持つね、と自嘲気味に笑うと、「まあ、一度顔を出すのも悪くはないか・・・。」とつぶやき、鋲で貼り付けられていた依頼書を少しばかり乱暴に引き外した。