第一話〈神聖スリンピア王国〉(プロローグ)
ようやくメインシナリオに突入と相成ります。前回のものより1年半後、レミュートも少しばかり成長し冒険者としてようやくというところです。
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目を閉じれば闇。
それ以外には何もない。一欠片の光の明滅も存在しない、一切が沈む夕日の向こう側へと追いやられ、それ以外には何者も存在を許されない閉じた世界。
やがて現実を浸食する運命にある世界。
そして、なぜか心地の良い揺りかごのように感じられる世界。
目を閉じれば闇。そうして世界は終わってゆく、そしてやがては目を閉じずして訪れる世界。
すべてがこうなってしまえばなんと心地の良い事だろうかと、私は考えるようになった。
そして、私にはその機会が与えられた、故に私はここにいる。故に私はそうあり続ける。私の望みが叶えられるその日まで。
少女は物思いから意識を戻す。少しばかり眠っていたのかもしれない。虚ろな意識の中、肌に感じる現実の感触は酷くぼんやりとしているように感じられた。
村を見下ろせる高台に一陣の風が通り抜けてる。空は赤く、大地は闇へと埋没していく。それは一時の眠りなのか、永久への旅立ちなのか。
それを推し量る術はないが、私にとってそれは最も心がざわめく時だった。
今宵は月のない空が広がるだろう。
大地の一切を暗がりが支配し、草木も人間もその静かな眠りを障げられることはない。
少女は外套を引き寄せ、一瞬襲いかかる悪寒に耐えた。
大丈夫、その苦しみは一瞬だけだ。
「せめて穏やかな闇に抱かれんことを・・・。」
漆黒に身を包む少女はまるでその罪の許しを請うように堅く目を閉じ、きつく手のひらを握りしめた。
その夜、また一つの村がこの世から姿を消した・・・。