2話 彼女の正体、彼の本性
彼女は解っていたのかもしれない。
彼女は知っていたかもしれない。
そのせいで彼女はもう
……諦めていたのかもしれない。
月日とは早いものでもう一年が経とうとしている。
もちろんイヴとの出会った日から。
あの日から私は何かと心が救われた。
ただの偽善であったとしても私にとっては神が垂らした一筋の糸だった。
その糸は今、本に夢中になっている。
サプライズでケーキを買うならちょうどいいかもしれない。
人間の文化とは面白いもので他者と感情を分かち合いたいらしい。
特に”感動”や”好き”を他人に押し付けようともするらしい。
特にそうなった日を記念日とする、とも書かれている。
この本は面白い、たくさんの知識が得られる。
読もうとした経緯は彼女にある。
彼女に元気になってもらうにはそのための知識が必要だと思ったから。
今日はイヴの誕生日だ。
プレゼントを買うお金は…あまりなかった。
だから私は、私を教えることにした。
私の名、私の里、私の人生を。
こんなものがプレゼントになるとは思ってない。
だけどイヴがこれで私を知ってくれたら。
それだけ私はイヴに安心してもらいたい。
そうだ、今日は彼女と出会って1年。
つまり僕の誕生日だ、本に夢中ですっかり忘れていた。
もう1年になるのか…本当に一瞬で過ぎたなと思う。
そして彼女は”ぷれぜんと”として彼女のことを教えてくれた。
彼女の名はカベル、彼女の故郷は失われた、彼女は僕と同じ…孤児だった。
カベルは気恥ずかしそうに教えてくれたが僕にとっては…
あぁそうか、これが”嬉しい”なのか。
イヴは喜んでいるように見えた。
私にとっては嫌な過去だけどイヴは教えてくれたことがとても嬉しいらしい。
私はカベル、私は孤児。
彼はイヴ、彼もまた孤児。
私たちは同じだ。
でも…イヴには同じ道を辿って欲しくない。
カベルには悪いことをした。
彼女にとっては思い出したくない過去だったのだろう。
でもそれを教えてくれた。
それが嬉しくて嬉しくてたまらなかった。
僕にとって彼女は必要になっているし彼女にとってもそうであってほしい。
だけど僕が必要なくなったら?僕はまた1年前に戻ってしまうのだろうか。
今日はとても良い日になる気がする。
彼が、イヴが仕事に行く前にハグをしてくれたのだ。
撫でる行為は恥ずかしくなったのだろうか。
でもイヴの時々みせる不安の表情を私はなんとかできるだろうか。
イヴには本当に感謝している。
イヴのおかげで会社に行くのが楽しくなったのだから。
今日は少し暑い。
梅雨だからだというのもあるのだろうが…やはり僕にも”恥ずかしい”はあるらしい。
ハグは早かったのだろうか、カベルも少し顔を赤らめていた。
きっと喜んでくれているだろう。
しかし、カベルの言う仕事とはどんなものなのだろうか。
少し気になるが邪魔になってはいけない、今度さりげなく聞いてみよう。
イヴが会社に来る。
それが意味することはどうも単純ではないらしい。
会社見学のイベントはあるがあんなものは罠だ。
私の勤めている会社はブラック企業だ。
イヴがそんなものを見たら家の外、外界を嫌いになってしまうかもしれない。
でもそれはもしかしたら彼の身を守る一番の安全策なのかもしれない。
イベントの日ならいい、か。
僕にとってカベルの敵は僕の敵。
彼女の”悲しい目”は最近は見ない、無理をしているだけかもしれないが。
あの目の正体は仕事にあるのかもしれない。
僕が突き止めてなんとかしなければ。
××の仕事でもあるから…ね。
はい、僕です。
今回のイヴくんの発言で何が起こるか。
勘のいい人ならわかったかもしれません。
彼らにはどんな結末があるのでしょうか。
次話をお楽しみに。(初めてまともなこと書いたかも)