初恋は巫女
※夢学無岳様の企画「美少女さしあげます」に合わせた小説です。詳しくは、『しろうと絵師による 「なろう小説」挿絵 製作日記』を参照くださいませ。URLは、https://ncode.syosetu.com/n5400en/です。
「あれ? お前、枡酒なんか頼んだか?」
「僕は、軟骨の唐揚げと枝豆しか頼んでないっすよ。先輩じゃないっすか?」
「いや、俺は中ジョッキ一つと、あとエイヒレと銀杏しか」
「そっすか。――女将さん。これ、注文と違いますよ!」
*
「それで、転校と同時に自然消滅したって訳か」
「そうっす。親父が転勤させられてなければ、手の一つや二つも握ってたかもしれないんすけどねぇ」
「一つで十分だろ。両手を握ってどうする」
「いやだなぁ、言葉の綾じゃないっすか。それより、今度は先輩の番っすよ」
「俺の番だと?」
「そうそう。僕だけが初恋の話を暴露して終わったら、アンバランスっしょ? ここでは、お互いに腹を割るのが決まりなんすから」
「そんな法律はない。そもそも、お前が勝手に言い出しただけだろうが」
「アー、アー、因果論は受け付けないっす。いいから、教えてくださいよ」
「しょうがないな、まったく。――あれは、俺が小学校に上がる前の話だ」
「おっ。ずいぶんとマセた子供だったんすね」
「茶化すなら、話さない」
「そんな、冷たいこと言わないで。しばらく、口をファスナーロックするっすから」
*
「黒髪のロングヘアが、透き通る肌や赤と白の装束とマッチしてて、清楚な美人だったんだ」
「なるほどねぇ。それから、どうなったんすか?」
「いや、それだけのことなんだ。ガキの頃のことだから、おぼろげな記憶しかないこともあるんだが、一歩鳥居をくぐったら、そこは神域だし、巫女ってのは神聖にして侵すべからざる存在だから、その清らかなオーラに圧倒されて、なかなか近寄りがたくてさ。いつも茂みの隙間から、俯く横顔を遠くから見るだけにとどまってたんだ」
「ふ~ん。それで満足だったんすか?」
「まぁ、当時は、まだ純粋な子供だったからな。コンタクトを取ろうにも、どう話しかけていいかも分からなかったし。でも、かえって、それくらいの距離感を保ってるほうが良かったんじゃないかなぁ。近付いて正面から顔を見たり、声を聴いたりしてたら、可憐な乙女のイメージがガラガラと崩れてたかもしれない」
「ヘヘッ。かもしれないっすね。案外、あの女将さんが、そのときの巫女さんだったりして」
「おい、指をさすな馬鹿。それなら、とっくに気付いてるはずだろう?」
「でも、顔もハッキリ覚えてないんっしょ? ありえないとは言い切れないなぁ」
「お前なぁ」
「怒らない、怒らない。あっ、そうだ。〆に、ご飯ものを頼んで良いっすか?」
「ケッ。勝手にしろ」
「はぁい、好きにします。――女将さん。焼きおにぎり一つ、追加ね!」
※先輩の記憶を忠実に再現した挿絵として、あえて顔が不鮮明なほうのイラストを載せました。完成版が見たいかたは、https://23549.mitemin.net/i308797/へ。