四話 たわいのないもの
四月に入学していれば部活動に入ることもあっただろうけど、特段部員の追加募集というものは無い。
部活動をやりたいかと言われたらそんなことは無くて、じゃあ放課後になにをしたいかと言われたらすぐにアニメショップによるか、家に直行して途中で放置してしまったゲームや、まだ見れていないアニメでも見ることかな。
そんなたわいのないことを考えていた。
「口に含んだ瞬間これは不味いっておもったものない?」
「なんですか突然」
昼休みに屋上でぼんやりと風を受けながら昼食をとっていると、生徒会の腕章をつけた猫背な人物がボクの隣に腰掛ける。
「初対面にしては知り合いと似ていたからかな」
まぁ、瞬の時だったら友人みたいなものだけど。多分そんな事には気付いていないだろう(と思いたい)。
「で、君はなんて名前なの?」
「一三月です」
「そっか。ニノマエなんだ」
なんだってなに……なにか確信してないか?
「僕は嘉斎待宵。学年的に君の先輩で生徒会の人間だよ」
前髪でいまいち表情は見えないが、微かに笑ってそのあと何か考えているようだった。
「よろしくお願いします」
この後特別関わることがあるかはわからないが、自己紹介とはこんなものだと思う。
「うん。それで、不味かったものの話だけど。この学園の水かな」
本当に何をしに来たのかわからない。特に深い意味は無いように見えるが、彼が見ず知らずの人間にいきなり話し掛けるような人物だったかと思い返してみると……普段の彼を知らないからわからない。
「水ですか」
「学生寮の方はぎりぎり飲めるけど、ここはやめておいた方が良いよ」
先輩はバンダナに包んでいたものを自分の膝の上に広げる。中身は栄養系のゼリー飲料とバナナが一本はいっていた。
「それだけですか?」
仕方なさそうに飲み込んでいるようにみえるので、食事がそこまで好きでは無いのだろう。
「バナナ。半分いる?」
「いえ」
好きではないけど空を見上げると、雲一つなかった。
「……ほんとは灰色の髪してない?」
「いいえ」
「ほんとは統堂瞬でしょ」
「……」
聞こえなかったことにした。
隣っていう至近距離なのにそれは無理な話だ。
「調べ物には手がかりが必要かな」
横を向くと先輩はぐっと顔を近づけてきて、ボクは思わず顔を後ろに引く。ザクロ色の目は自嘲気味に笑っているように見える。
「誰か助かるように見えて、そんなことは無いように出来てるんだ」
「……それはどういう」
先輩は立ち上がり、何事もなかったかのように出口へと歩いて行く。
その後ろ姿を見送ってから、彼の座っていた場所を見ると購買に売っていたお守りと白い封筒がおいてあった。