10話 描きかけの終わり
高架下の公園にある滑り台の鉄板の階段をローファーで音を響かせながら上がりきる。この靴は特定の場所を歩くとき、わかりやすい足音が聞こえるものだから、はいていると自分はそんな年齢になってなにがどうあれ学生というものをしていることを時々、ほんの時々感じて……ヒールも物によってはそうらしい。
「なんでここなんだろ」
外にある遊び場にもかかわらず、それにしてはやや閉塞感があり人気はあまりない。滑り台を用途の通りにすべるのは気が引けたから、また階段を降りてジャングルジムに上がって、先輩たちが来るのを待つ。
道路沿いにあるから空気は悪い。
「お、来た」
生徒会のみんなが何かを話しながらこちらに歩いてきて、けれど副会長の姿が無かった。なにかほかに用事でもあったのかな?と思ったけれど、昨日から学校でも見かけなかったのだ。
「……みんないますね。よかった……生徒会室で話す。よりはここで話した方が動きやすいので」
生徒会長の話を聞く。不安そうな顔というか、真剣な顔をしているから何か気まずいはなしみたいだ。
「寧子ちゃん、あの、降りてきて下さい」
「あ、はーい」
ある程度降りてからぴょんと地面に着地する。
「それで、話って?」
待宵先輩が続きを促す。
「副会長……沖蛍介くんのことで」
「先輩、昨日から学校にきてませんよね」
「歩道橋の階段から落ちて入院をしています」
私もみんなもびっくりして、しばらく誰も話そうとしなくなる。えっと……なおるんだよね?
「どうして会長がそんなことを知ってるんです?」
「それは……私が病院まで付き添ったからです。いきなり落ちてくるのを見てしまって」
すごい偶然で、入院なんて起きたらいけないことだけれど生徒会長がそばにいてよかったのかもしれないと思う。ただ、私たちには保護者になる大人がいないから……えっと、普通より大変なんだよね、たしか。
「病院は私たちが診断をうけているいつものところで、入院している病室は225号室です」
「……呼び出したのはこれからみんなでいくために?」
「良い先輩だけど、いくら心配して見に行ったところでなにも起きない気がするよ」
「寧子ちゃん……いくらなんでもそれをいう?」
豊くんが苦々しい表情で私を見る。だって、本当のことじゃないか。
そうだ。思いついた。
「あ、そうか。私、先輩の目が覚めて治る絵を描くよ。今まで楽しいことに使ってきたけどさ、こういうのにつかえば良いんだよね」
鞄にはいつもスケッチブックとクレヨンを入れてある。
ちょっとした思いつきだったけれど、人を助けることに使うのは、もしかしたら初めてのような気がする。
「じゃあ、かくね」
よくわかってないけど幸せそうな絵にすればなんとかなるかな?
「……お願いします」
みんなが見る中でベンチに座って道具を取り出してスケッチブックのページを開いて、外で描くこと意外はいつものように描いていく。少し車の行き来する音とかがうるさいけれどまだ集中できてないからだろうなぁ。
時間をかけずに半分くらい描いたところで、急に自分の体が動かなくなってしまった。
「どうしたの」
「うごかなくて」
別に描きたくなくなったわけじゃないし、あれ?おかしいな。
なんだか勝手に咳き込みはじめたと思ったら口から血が出てきて、だけど痛くもなければ苦しくも無いのが不思議で、手で押さえないと絵が汚れちゃうのにな。
そうこうしているうちに膝に乗せていたスケッチブックは落ちてみんなが駆け寄ってきたんだけど待宵先輩が触ったら急に目が見えなくなって、声とか、かけてくれてるんだろうなってのはなんとなくわかるんだけど全く聞こえない。
これ、死ぬってことなんだなぁ……。
*
嶋屋寧子がいきなり動かなくなってそのわずか数分後に息を引き取り体が赤い砂に変わって、どこからともなく現れた空っぽの砂時計に回収されていき、いつの間にか砂時計もはじめから存在しなかったかのように消え失せた。
「…………なにがおきた?」嘉斎待宵は放心状態のまま呟く。
その場にいる誰もが理解できないまま、けれど嶋屋寧子は鞄とさっきまで絵を描いていた道具を中途半端に残して居なくなってしまった。
「……これが狂花の終わり方……ですか?」
時瀬露葉は誰かにたずねるような言い方で、けれど事実を確認するようにかすれた声でそう言う。
「こんなのって……」
楠木豊は力なくその場に崩れて座り込んだ。
ずっと、しばらく誰もその場を離れようとはしなかった。




