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九話 明確な悪夢

 どこかおかしな約束をした日の放課後、生徒会の仕事を終えて空がやや薄暗くなってから僕と会長は手をつなぐ。

「あ、ごめんなさい緊張してしまって」

 言いだした会長はと言うとやや落ち着きがなく、ほんとうに緊張しているのか手も汗ばんでいる。

「ケーキを食べて帰るだけです」

「自分の分は自分で……」

 言葉が濁って、気まずそうに僕を見上げる。財布でも忘れたのか、それとも所持金が少なかったのか……まぁ、奢ると言ったからには奢る。

 ただ会話もなく歩くだけになるとは思うが、

「あの待宵くん」

「なにか」

「……私達は普通の人間だったら幸せだったでしょうか?」

 そう問いかけられるとすぐに答えられない。普通ってなんだろう。

「どうでしょうね」

「狂花の……あんな実験を受けることなく……家族とも一緒にいれて、平穏に過ごせていたら」

 家族と過ごすことが平和な場合もあればそうでない場合もあるけど、普通について考えるときの基準になるのかな……。

「会長の家族は?」

 話題に出すのだからそれなりに思い入れはあったのか。

「死んじゃったみたいだから、うん。全く思い出せないや」

「そうですか……まぁ、僕の家族もそうらしいです」

 どんな人達だったか……忙しくてろくにいない代わりに本がたくさん置いてあったような記憶があるが、いくらも朧気で、その記憶そのものが本物なのかもわからない。

「今が充分平穏ですから、これ以上なにかを望んでもいけないのかもしれませんね」

 平穏な日々はあとどのくらい続くのかはわからないが、それは誰も彼も同じようなものだろう。

 短かったがかけがえの無いものだと思えるような終わり方をするかはともかくとして。

「たしかにそれは言えてますね」

 寄り道先にと思っていた店が近付いてきたので一時的に会長の手を離すと、彼女は柔らかくこちらに笑いかけた。

「あの……実はですね待宵くん。私、手を繋いで誰かと歩いたの、狂花になる前から思い出すとはじめてかもしれません」

「そうですか」

 喜んでいると言うよりははしゃいでいるようにも見えて、少し僕も嬉しくなった。

 こんな年で異性同士が学校帰りに手をつないで歩くとしたらおそらく恋人くらいしか想像はつかないが、これほど純粋に感じる人間を見たのはおそらくはじめてだ。

「同じ速度で歩いて話すのはたのしいですね。今度は寧子ちゃんともしてみようかな」

「楽しいならよかった」



        *


 あのあと。たしかに僕は会長とケーキを食べて寮まで帰ったはずだ。

 それで、自分の部屋の中に入ったのか、入ろうとしたところだった……はず……だけど何故か無理矢理時間を巻き戻されたような、いつの間にか無意識に行動していたかのような気持ちになる。

「あら、気が付きましたか」

 いつの間にか花がたくさん飾ってあって、甘ったるいにおいのする通路を会長と進み、骨がばらまかれた小川のような所をあるいていた。

 ここには来たことのあるような、無かったような。

「この骨、なんだと思いますか?」

 悪趣味で可愛そうなことはやめろとあれだけ止めてくる会長は穏やかに笑みをうかべ、僕に問いかけてきた。

「…………墓荒らしですか?」

 これだけばらまくには相当必要だっただろう…………けれど、そんなに簡単に人骨を入手できるような人脈なんて狂花の僕らには無いはずだ。

「ふふっ。少し惜しいですね」

 可笑しそうに会長は言葉を続ける、

「正確には狂花のなり損ない…………廃棄された人達です」

 身体が動かなくなる。

 それこそ跡形もなく処分される物だと思っていたし、たけどどう手に入れたかまでは聞かない方が良いだろう。

「……どうして僕にそんなことを教えるんですか?」

「悪意と精神操作は相性が良いからですよ」

 それまで制服姿だった会長は一瞬で煌びやかな着物姿になって、すべてを深遠に落とすかのような濁った瞳で僕に微笑んだ。

「…………っ」

 反射的にいつも服に隠してあるナイフを取り出そうとして、けれど何も持っていないことに気付く。

 ついさっきまで操られていたのだから危ないようなものがぬきとられていたっておかしくなかったんだ。

 どのみち、それほど長く生きられないんだから殺されても良いか。

「そんなに怯えなくとも大丈夫。殺しませんわ」

 懐かしい良い香りがして視界がぼやけ意識が遠のく。

 今更気が付かなくたって、ここに入ったときから漂っていた……ような……。

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