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八話 日常的なこととは

 一人で作業をしていても私は常に見られていることになるが、記録を残すことについては、改ざんされている気配も無いため『彼女』は得に関心を示していないようだ。

 こんなことに手を加えなくとも、彼女の方が私よりもよくわかっているに違いない。

「……使い方があるとしたら」

 戦闘とかのそういう攻撃的なことをするときに心の中に現れる、これ以上はいけないという心理的な枷を一時的に完全に打ち消して……ブーストというよりは疑似的な暴走に近い状態になって、量が多すぎれば本当に暴走するのではないか。出来たとしたら能力者からただの兵器にかわってしまうだろう。

 怖くなってしまったけれど、ノートにはメモとして残す。液体の量を調節したり本当にそうなるかは実験してみなければわからないことで、そんなことに他人を付き合わせるのも気がひけるし、付き合ってくれるような人はいないだろうな、ていうか、ふつうにいなくていい。

 改めて時計をみると昼休みの時間が半分くらいすぎていて、私はお昼を食べるのをすっかり忘れていた。

 慌てて白衣を脱いで廊下に出ると、

「露葉会長」待宵くんに声をかけられる。

 今通りかかったようなそれとも待っていたようにも見えて、

「何か用事?」

「食堂にいきませんか?そろそろ空いてくるころなので」

 混んでいるであろう時間を微妙にさけているところがどことなく彼らしいと思う。

「いいよ」

 食堂について、食券を買おうとするとほとんどのメニューに売り切れという文字と赤いバツマークが表示されていたのでまだ売れ残っていたパンを買い、カップの自販機で買った珈琲に追加の砂糖を入れてテーブルにおき、椅子に腰掛ける。

「この前、小さい生き物に酷いことをして……露葉会長にも迷惑をかけたので」

 向かい合うようにすわった待宵くんは自分の分の珈琲の水面を見ながらぽつりと言う。

「ごめんなさいと謝っておきたくて」

「えっと……もうしないのであればそれで良いですよ」

 待宵くんは珈琲を一口飲む。

 自分はと言うと、よくかき混ぜてはいるけれど、温度がぬるいか量がそれほど多くないからか底の方からじゃりじゃりと音がして……完全に溶けてはいないみたいだ。

「……会長。なにか僕にしたいことはありますか?」

「……ええと?」

「日常的なことなら付き合うので」

 咄嗟にそんなことを切り出されたものだから、どんなことを考えて答えたら良いのかわからない。

「言葉が少ないよ待宵くん」

 ふとおかしくなって曖昧に笑う。

「じゃあその……お詫びみたいなものです」

「そっか」

 じゃあどうしようかな。

 そんなにいきなり言われても思いつかないし……手伝ってほしいことはあるけど、それとは別のものの方が良いかな。かといってあまり困らせるようなことを言うのもなぁ。

「一度だけ、私と手をつないで帰りませんか?」

「……え?」

「手をつないで歩くのは日常的なことで……待宵くんはたまに変な寄り道をしている噂を聞くので。一度でもこうして帰れば良いかなと思って」

 そう言うと待宵くんはなぜか困ったような顔をして私を見ている。

「恋愛的な意味とかは無く?」

「え、えっ、れ、恋愛!?どうしてそうなるの??」

「そう言うことをするのは恋人か親子かと……まぁ、方向も同じだから良いですけど」

 彼の反応からするに私の認識は少しずれていたらしく、ちょっと恥ずかしくなりながら珈琲を飲むと薄い香りと甘い味だった。入れすぎたみたいだ。

「じゃあ……決まりってことで良いの?」

「ケーキくらいは奢りますよ」

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