一話 双子なりの始まり方
統堂瞬は部屋の片付けに取りかかろうとしていたが、それがやや億劫だった。
CDのケース一枚はそれほどの厚さではないが、いくらかそれが重なると存在感を放つ。
棚に、本と同じように並べなければいけないのだが、重ねるだけで満足してしまったし、入れられる場所そのものがもう少しで収まりきらなくなるから、ある意味これで良い気持ちすらわいてきて、つまるところは現状を維持したままになりそうだ。
「日常あるあるなんだろうけど、シングルよりアルバムの方が沢山曲入ってて……」
「片付けろよ」
言い終えてないのにぴしゃりと瞬殺されてしまった。
「それにお前、気になった動画の曲ネットから直接入れてただろ」
言っている秋だって、細かい仕組みを知らないわけじゃないくせに。
いや、なんで俺のダウンロードした履歴をしってんの……?
「なのになんで増えるんだ」
それはとても呆れた表情だった。
ツッコミたいけどいま言うと話が長くなるし、聞かれたことにだけ……答えても同じ終わり方する奴だなこれ。
「それは……実物で欲しい奴とCD出なさそうだなって奴があって……」
「ちゃんと片付けられないなら増やすな。埃だって積もるし日光に当ててたら変色するんだろ」
「う……」
俺がフィギュアや単行本とかに対していつも言ってることをこいつは……こう言われると返しようがない。
片付けるしかない。
CDを持って棚のあるところまで歩いていたところで、ドアの開く音が聞こえて、それにつられて振り向くと、茶色い大きめの封筒を持った朝霧が俺達を見ていた。
「部屋の片付けか?」
「そんな所だ」
「……散らかしたの俺だし」
棚に入るだけいれて、残りはもう一つの部屋にある棚に入れた方が良いな……ゲームソフトと並べるのは避けたかったけど、怒られて面倒くさい気持ちをするよりはいくらもましだ。
「キリの良いとこでやめてリビングにきてくれ」
「……わかった」
「何の用事だ?」
なにかあるらしい。
……なにがあるんだろう?
*
数日後
京華学園への転校手続きだとか、挨拶だとかをすませて、通い慣れた頃。
統堂秋から十時六花の姿になってからは、いつもノイズキャンセリング付きのイヤホンをつけてなにかしらの音楽を聴きながら登校している。
雑音を聞き取らないためと、あくまでもこういう自分の世界に入っている人間のふりをするために。
どうせなら本来の姿である統堂秋の姿で通いたかったが、朝霧に言われた「潜入」のテストもかねてしていることでもあるから、なんてことはないな。
「おはようございます六花さん」
イヤホンをしているにも関わらず声をかけてきたのは、一三月だった。
同じ双子の瞬が変装しているものだが、こいつはこうやって変装して性格ごと切り替わらない限りは毎日学校には来ない。絶対そうだ。
にこやかで愛想を振りまいていて、お調子者とまではいかないが社交的な性格になる癖に、変装を解くとすぐに猫背になって足をするようにあるく。
「なんだ」
「同じ日に転校してきたので、声はかけておきたいなっておもって」
「そうか」
「お互いクラスは違いますが、頑張りましょうね」
異端さが際立つがそれもテストのうちに含まれているのかいないのか……朝霧が常に観察してるわけでもないだろうが。
「なにをだ」
「いろいろです」
三月はにこにこ笑っていて、思わずため息をついた。
ともあれ始まってしまったことにはやり遂げなければいけないな。