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一話 後輩二人

 二年生の生徒会書記、楠木豊くすのきゆたかの能力は、一言で言えば嫌いだと思った人間をパズルにすること。

 彼は元々ジグソーパズルを作ることが子供の頃からの唯一の時間つぶしで、作り上げたことによって誰かにほぼ確実に褒められるからであり、褒められるからといって特別好きなことではないらしい。

 彼の能力の説明に話を戻すと、嫌いの度合いによってピースの数は増えたり減ったりすることと、パズルを彼のいう期限の間に組み立て終えてしまえば、パズルのモデルにされた人間は解放されるということ。

「今日はこの真っ白いパズルに挑戦しますね」

 彼は買ってきたパズルの箱を僕に見せて、あらかじめ録音されていた音声のごとく機械的な声でそう言った。

「……飾るところは?」

 いつもはそっかと一言言えば会話はそこで終わっているけど、少しは気にしないといけないところだと思ったのできいてみることにした。

 生徒会室にはもう飾るスペースがないし、美術室にも一部飾られているけどそれだって限度はあるし。

「学園は広いし大丈夫ですよ」

 涼しげに、にこやかに人間らしく彼は言葉を返す。

「……僕が気にすることでもなかった」

 と言うのも、彼の購入してくるパズルは生徒会の経費から落としているわけではないから。

 パソコンを立ち上げてパスワードを入力していると、豊がパズルの箱を開けて生徒会長用の大きめの机の上に広げた音が聞こえてきた。

「僕のことはパズルにするとしたら何ピースぐらい?」

 パスワードは打ち終えたけれど、まだなかなか画面が出てこないので雑談がてらたずねてみる。

「んー……ゼロピースです」

「え」

「だって、嘉斎さんは俺やほかの人にはなにも悪いことしないじゃないですか」

 パズルには出来ないらしいことはわかったけど……僕自身最近変なことをしている自覚はあるにも関わらずそんな風にみられているなんて意外だ。

「良い人間じゃないよ、僕。会長とかを困らせることたまにあるし」

「会長は人を心配しすぎて一人で勝手にこまって、まともそうな方向に導こうとするだけですよ」

 こんな風にだいたい毎日のように一言二言会話していてわかったことといえば、豊は人の見方が少し独特かもしれないところがあるような。

「失敗もするし」

「失敗でその人を好きになるか、嫌いになるかは別物な時だってあるとおもいます」

 良い印象を持たれないどころか、これまで積み重ねてきたことが一気に崩れて嫌われるものだと思っているけど。

「ピースの振り分けをするので会話やめますね、嘉斎さん」

「あ、うん」

 ちょうどパソコンも使えるようになったので、保存しておいたデータを読み込んで昨日打ち終えたものを確認してから、続きを始める。この様子なら今日には終わりそうだな。


        *


 生徒会室に入ってきて早々にクレヨンを机の上にぶちまけ、備品入れのロッカーから大きめの画用紙を取り出したのは一年生で庶務を担当している嶋屋寧子しまやねいこだ。

 彼女が机の上にクレヨンをぶちまけるのは何か描きたい絵があるときかむしゃくしゃしているときのどちらかの行動で、どちらなのかは生徒会室のドアの開け方と閉め方で判別できる。

 今回は前者らしいから話しかけてみよう。

「バカ犬と飼い主死んだね」

 と思ったら声をかけるより先に、寧子は画用紙に視線を向けたままそう言った。

「……そうだね」

「先週先輩と描いただけあった」

「描いたっけ」

 僕が描き込んだとして何も起こらないはずだけどな。

 彼女が絵を描いているのはほぼ毎日で、出来ていてもいなくてもたまに見せてもらうこともあったり、ほかの生徒会メンバーが雑談していた内容から単語というか要素が彼女によって拾われて絵に描き込まれることもたまにある。

「誰にでも吠えて自分より弱い奴に噛みつくバカ犬殺そうと思って絵を描いてたら、先輩が飼い主もころそうよって言ってたやつー」

「いったかな」

 よく覚えていないにしてもその絵を見せてもらえれば何か思い出す気もするが、彼女の描くなにかを殺す絵はなにがどれなのか判別がつかないから、みてもわからなさそうだ。

 寧子の能力である、クレヨンで絵に描いたことが本当になる能力は便利と言えば便利だけれど、描かれないように気をつけないといけないなと改めて思った。

「今日はここ最近増えてる危ない系の外来種を鼠ともう一匹のバカ犬に食べて貰う絵を描くよ」

 彼女にしては比較的平和な部類に入る絵でよかった……いや、絵の中に犬が出てくることってわりとここ最近頻繁だから犬に何か恨みでもあるの……?

「ねぇ、それって人間も含まれる?」

 昨日買ったパズルを組み立てている豊がそう言葉を挟んだ。

 質問の仕方が方向性のわからない切り込み方してるけど……。

「んー。じゃあ含もうか。外来種はなにするかわからないし」

 外来種の人間……?

 すぐに言われてピンとこなかった。

 半分魔物が混ざっているとか、魔物じゃなかったにしても人間じゃない存在との間に生まれた存在とか……だとこの市内にいるのかいないのかわからないし、寧子の能力の影響を受けるんだろうか。

「外来種の人間って?」

 考えてもわからなかったから、二人に聞いてみる。

「外国人」

 淡泊に寧子は答える。

 外来種……かなぁ……?

「範囲が広すぎると思うんだけど」

 全部が全部悪いことをする人間とも限らないし、無理がありすぎる。

「じゃあやめとこ」

「その代わり、試しに会長でも殺したら?」

 そう言ったら、寧子と豊の手がほとんど同時に止まる。

 やろうとしたか、あるいは会長のことが好きだからやらないだけかもしれないけど、後者の理由だったら僕はこの二人の敵になるだろう。

「少し難しい」

「会長、人には慕われてますから」

「うん。忘れて」

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