双子編エピローグ 欠落事項
「お前らは悪意にのまれすぎたんだよ」
朝霧は俺達をみるやいなや重苦しいため息をついてから、いつもの軽くなだめるときのような調子でそう言った。
「のまれすぎたって、なんのことだよ」
調べて報告をしていただけのつもりだったが、なにかいけなかったのか?
「まー、なんだ。自然発生して中毒性のあるものと相性がよすぎたってことだ」
それに、まだ深部だとかそう言うのにだって踏み込んではいない。多分序盤の序盤くらいだろう。
でも……あの場所から二人そろって回収されたからなにかがいけなかったみたいだ。
「いまのお前らに言ったってわかんねぇだろうな。だからこの件は忘れて貰う。無しだ無し」
「忘れるなんて……。少なくともここで一ヶ月以上は過ごしたのに?」
潜入期間的に得た情報量は多いのに、そんなに簡単に忘れられるとも思えない。
「それはまぁ、そうだよな。俺もそこまで非道じゃねぇから適当に修正しといてやる」
「修正って、人の記憶だぞ」
朝霧はいつも不可能そうなことを簡単に言って、言うだけじゃ無くていとも簡単にやってのける。
それはわかってんだけど……記憶に関わることだからこそ、やたら扱いが軽すぎやしないか。
「はー……二人分か……まとめてやれれば良かったんだけどなー」
「……怖いから逃げていい?」
瞬がソファから立ち上がりそうだったがそのまま立ち上がれないのは、朝霧の表情がどのタイミングで消えるかわからないからだ。無表情になるとどうなるかは…………なにも思い出したくない。
「そうだなぁ。お前らが次に暮らすところは……しばらく病院だな」
「なんでだよ。わかんねぇよ。せめてそれなりに説明……」
してくれと言い切ろうとして、突然声が出なくなる。まばたきをするといちいち見えている色がすべて変わって、おかしい。
「その方が都合が良いんだよ」
聞こえた声は感情のこもっておらず冷たくて淡々としていた。ああ、これだよ、朝霧が怖いときの声。
瞬だったら、こういうときはこう思うんだろうな。
ゲームオーバーだ。とかそんな具合のことを。