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九話 利用方法の模索

 廊下を歩いていると、ふと不思議な香りがした。

 誰かのつけていた制汗剤か、それとも風に乗ってきた何かのにおいか……深く吸い込むと胸を焦がしそうな程度には甘い匂いで、懐かしさだとか、リラックス……ともすこしちがうけど安心感を覚えるような……。

 なんとなく現れたものなのに、変だなとは思うんだけど。気持ちが不安定になるよりはいくらも良い。

「……なんでしょうね」

 首をかしげて立ち止まると、化学室がそばにあって、微かに戸が開いていた。

 どうやら匂いはそこからしているようでこっそりとのぞくと、白衣を着た赤い髪の少女がなにかしているようで……理科系の部活動でもしていたのだろうと思う。

「誰……ですか?」

「えっ」

 赤い髪の少女はこちらをふりむいてそうたずねる。

「あ、えっとですね。怪しいことはしていないので入っても……大丈夫ですよ」

 どうしてボクに気付けたんだ?

 疑問はあるが、ふとした好奇心を優先させて教室に入る。

「あら?」

「はじめまして」

 彼女は不思議そうな表情をうかべてから、我に返ってあわてたように手にしていた瓶に蓋を閉めた。

 実験道具の硝子製品にしてはいくらか小さすぎるように思う。

「不思議な香りがしたもので」

「そうでしたか……ごめんなさい。実は、この液体はあまり外気に晒してはいけないんです」

 申し訳なさそうだとか困ったような表情で彼女はそう言った。そういうわりに蓋を開けていたようなんだけど……。

「あ、でも……悪いからと言って悪いわけではないんですよ」

「それは薬品ですか?」

 そんな道具の存在はいままで聞いたことがなく。けれど液体の色をどこかで見たような気がして、思い出そうとしてもなぜか記憶にもやがかかっているようで思い出すことが出来ない。

「私の能力で悪いもの……色々と略すと悪意を抽出して液体にしたものです」

「そんな能力もあるんですね」

 能力者って本当に幅広いことが出来るんだな。

「せっかく液体に出来ているので、なにか有効に利用できないか考えていて……調べてる途中でもあります」

 形に出来ないものを形にしていてすごいとは思える。

 でも、そもそもが『悪意』という時点で随分危険なものだな。

「いまのところ利用方法は見つかりそうですか?」

「量と相性によっては、能力をブーストすることが出来そうです……でも。量が多すぎると麻薬のように依存してしまうかもしれないし、具合を悪くするというデメリットの方が大きくて……暴走に繋がる可能性も高いです」

 そんなに危ないのなら極力利用しない方が良いのでは……?

 普通に生活していく上でそれほどブーストが必要になってくる場面が出てくるとも思えない。

 能力の暴走は様々なものを巻き込むし、ダメージとかも大きく……最悪は殺されるまで止まらなくなると話では聞いてもいるものだから「ええと」一通り聞いたとは思うが、反応に困ってしまった。

 かりかりとノートに書き込む音だけが響き、しばらくしてから彼女は顔をあげてこちらをみる。

「そうだ。私、ここまで話して自分の名前も名乗っていなかったし貴方のことも知らなかったです」

 今後関わらなければ知らなくても苦労は無さそうではあって……別に自己紹介が面倒なわけじゃないからな勘違いしないでよね。

「そうでした。ボクは一年の一三月です」

「私は三年の時瀬露葉ときせつゆはです。あ、そうだ。実は生徒会長をしています」

「そうなんですか」

「はい。なので、学校行事や集会のときにみんなの前で何か話すこともあるかと……」

 現実の生徒会はそれほど権力は無いらしいが、大勢いる生徒の代表になるくらいだから、何かしら慕われているのだろう。

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