双子編プロローグ
どこかの薄暗く長い廊下。
灰色のコンクリートの床の上をつまらなそうに進む足音が響く。
いくつかある黒いドアを通り過ぎて、ポケットに入れてあるライトを取り出してつけてから一番隅にあるワインレッドのドアを開けた。
ライトが映し出したのは、壁や床がピンク色と紫色の中間ほどの布で覆われた室内で、その中に入ってドアを閉める。
光源となるものは手持ちのライトのみで適当に壁に向ける。
ライトが照らしたものは仮面で、どこかの誰かと似たような顔や、全くの架空の生物の見た目をしたもの、一度は見たことのある、懐かしいとさえ思えるもの……とにかく様々で、集めたのか、集まってきたのかは定かではないが、数え切れない程度には沢山飾ってある。
ここにあるものは、自分がいくつかのものごとを傍観してきた記録の中から印象にのこったとかを、形にしたものだったな。
何かを探しに入ったわけではなくて、抜け落ちた物がないか確認するため。
誰も盗みやしないけど。
壁の布を少しふれてから廊下に出てドアを閉めてまた進み始める。
なにかのはじまるブザーの音が聞こえた。
走っていたら赤紫色の目の女の子とすれ違い、でも、自分のことは見えていないみたい。
「あの子か」
黒い大きな扉を開け、観客席に腰掛ける。
何が起こったとしても傍観者にとってはただそれをのぞくだけのこと。