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第一話 世界に平和が訪れ…た?


勇者様が魔王を討ち取り、世界に平和をもたらしたという知らせはすぐに私の耳にも届きました。

人々は歓喜に湧き、あちこちお祭り騒ぎでありました。もちろん私も、その知らせに胸を踊らせ、彼らの帰りを今か今かと待ちわびたものです。

「勇者ロディア、魔法使いミリア、僧侶セーラ、ただいま戻りました」

聞きなれた優しい男性の声が王の間に響き渡ります。声の主は茶色がかった髪を短く切り、まだ少年らしさが残るものの、端正な顔立ちをした青年。彼こそ、私と結婚を誓った勇者、ロディア様であるのです。

「あっぱれじゃロディアとその仲間たちよ!見事魔王を討ち取ったようじゃな。さて、肝心の魔王の首は……?」

お父様もいつのも厳格な態度とは一転し、喜びに弾んだ様子です。

「はい王様、魔王の首はここに!」

高々と魔王の首を持ち上げるのは小柄で可愛らしい容姿をしながらも、秀でた魔法の才を持った魔法使いミリア様。桃色の大きい瞳はくるくるとよく動き、まるで子犬を思わせるます。

私は思わず魔王の首と聞き、視線を他に移してしまいました。あまりグロテスクなものに馴れていないのです。

「おお、この禍々しきはまさしく魔王の首。見事なり。はて、先ほどから戦士殿の姿が見えんが……」

「誠に残念ながら、戦士カイウスは魔王との戦いで命を落としてしまいました。彼は勇者を魔王の攻撃から庇い、散ったのです。私たちはカイウスの死を乗り越え、魔王討伐を成功させました」

睫毛を涙で濡らして僧侶セーラ様が、小鳥の鳴き声ような美しい声で台本を読むかのように言います。豊かな金髪がキラキラと光を散らし、その顔はまるで女神像のよう。

カイウス様の死と聞いて私は唇を噛み締めました。あまり会話したことはないけれど、無口ながらも思いやりのある方だった……。


「そうか……それは残念なことだ……。しかしこうして魔王は討たれ、世界に平和が戻った。カイウス殿も天で喜んでいることだろう」

「はい、そう信じています。カイウスは僕の親友でしたから」

ロディア様が顔をくしゃりと歪ませて答えます。そうですね、確かロディア様とカイウス様は身分を越えた親友だと聞いておりました。

「さて、肝心の姫との婚約はいつにしよう? 我としてはすぐにでも執り行いたいと思っているのだが……」

「それは大変有り難いことです……しかし、僕たちは少々疲れが溜まっているので一晩休みを頂きたいと思っているのですが」

「だそうだがイブマリー。どうする? 明日でも構わないか?」

お父様が不意に私に話を振る。もちろん私ははいと答える。大好きなロディア様に無茶はして欲しくないのです。


「分かった。ならば式の日取りは明日、太陽が真上に昇る頃。それまでこちらで準備を進めよう、勇者たちは十分に休息を取るがよい」

お父様の言葉を合図に、お城の中は一気に忙しくなりました。


◇◇◇


ウェディングドレスの採寸や式の段取りの確認、あらかたやることを終えた私は気晴らしに散歩に出かけました。結婚式って結構大変なのですね……ぎゅーぎゅーに採寸されたせいか体の節々が痛みます。

そんなとき、見慣れたあの人が世界樹の下に座っているのをみかけた。

「ロディア様!」

声をかけると、彼は顔をこちらに向け、ふわりと笑みを浮かべました。

「やぁ、イブマリー姫」

「ふふ、姫なんて呼ばれるとくすぐったいです。…あ、隣よろしいですか?」

ロディアがそっと少しだけ詰めてくれた。私はその隣に座る。久々に会う彼は前よりもずっと大人になっていて、思わず心臓が早鐘を打つ。

「最後に会ったのは一年前ぐらいだったかな? 綺麗になったね」

「え、あ、ありがとうございます」

綺麗と言われて飛び上がるほど嬉しくなりました。

「ロディア様も凛々しくなられましたね。魔王討伐、本当にお疲れ様でした。」

ロディアがふっと笑う。

「楽ではなかったけど、やり遂げられて良かった。皆は勇者なんて言うけど僕一人の力じゃとてもどうにか出来なかった。ミリアやセーラ、そしてカイウスのお陰だよ」

「ええ、皆さんの力あってこそです」

「……イブマリー」

「はい?」

不意に甘い声で名前を呼ばれ、体が縮み上がった。彼はこんな声を出せる男性だったかしら?

「僕、頑張って君を幸せにするよ。だから付いて来て欲しい」

私は思わずくすくすと笑ってしまいました。勿論彼を馬鹿にしているわけではありません。私たちが子どものときもそうやって彼は私に、ここで、その台詞を言ったのです。

「何で笑うんだい」

むくれたように彼が唇を尖らす。

「ごめんなさい、小さい頃もそうやって告白されたなーって。ふと思い出しました」

「あ、あー、そういえば……。まだ9歳ぐらいのとき……」

途端に少年のように顔を赤らめる彼が愛しくてたまらない。

「私は今も昔も、あなたを愛していますよ」

ロディアは返事をせずに、ただ私の体を強く抱き締めた。良いムードの中、いよいよキスなのかと思い、私は目を閉じ、唇を近づけた。が、彼はそっと指を私の唇に触れてこう言った。

「それは結婚式でのお楽しみ」

いじわるな顔でウインク一つする彼すらも、愛しくて仕方がありません。


◇◇◇


ロディアと別れてから私は寝室で一人ぼんやりとしていました。窓から見えるのは雲が全てを覆い隠して月一つ見えない暗闇です。


「どうしましょう……ドキドキが収まらなくて寝付けないです……」


初めて会ったときから好きだった。お父様に決められた結婚だったかもしれないけれど、彼のくすぐったそうに笑う顔も、優しい声も、暖かい手も、全部全部好きだった。


彼こそ勇者だという予言が下り、魔王討伐に行かなければならないと知ったときはしばらく食事が喉を通りませんでした。魔王を倒すなんて、途中で怪我をしたら? 死んでしまったら? 二度と彼と会えなくなってしまうかもしれない。そんな不安が胸を貫いたのです。


でもそんな悩みも今日でおしまい。明日からはずっと一緒にいられるなんて、思わず頬が熱くなる気がしました。


「どうしても眠れませんね……そうだ。ロディア様と少々昔話でもしに行きましょう」


私は鼻歌混じりに自分の寝室をあとにすると、彼のいる特別室へと向かいました。特別室へは階段を下りなければいけません。私は暗闇の中、恐る恐る手すりに掴まって踏み締めるように段をおります。


あれ? でもまだ日も沈んで早い。メイドたちや警備の者が誰一人いないなんてことあるのかしら……。


不安に刈られながらもロディア様の元へと向かうと、女性の苦しそうな声が聞こえてきました。その声はロディア様の部屋から聞こえてくるようです。

もしかして敵襲!? ロディア様が危ない? そう判断した私は、ノックをせずに彼の部屋の中に、扉を破るようにして飛び込みました。


そこで見たのは、魔王の残党でも、敵でもありませんでした。


自分の目が信じられません。


そこにいたのは、ベッドの中で裸で絡み合う、ロディア様と二人のお仲間の姿でした。


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