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第十三話 謎の少年、ジュード

すると途端にぱっと拘束が解かれ、私はぺたりとその場に座り込みました。


ミリア様が不思議そうな顔をして辺りをキョロキョロ見回しています。すぐ近くに私はいるのに、まるで透明人間になってしまったようです。


また地面に放り出されたはずのアルベルトの姿がありません。

すぐさま姿を隠したのでしょうか……?


何が起きたのか分からず、私は後ろを振り返りました。


「ごめんなさい、何だかピンチみたいだったから無理矢理引っ張り込んじゃいました」


そこにいたのは金色の髪に碧眼、 物語に出てくる王子様のように整った顔立ちの少年でした。年は十才ぐらいでしょうか?


ゆったりとして穏やかな声ですが、アルベルトに少し似た雰囲気を纏っています。


「あの、ありがとうございます。助かりました。でもこれは一体……? 」


「ここは僕の魔法で作った異空間。ふふふ、あの人たちからしたらお姉ちゃんが煙のように消えたように見えてるよ」


異空間?


私より遥かに年下に見える少年ですが、とんでもないことをやってのけています。


「僕の名前はジュード、お姉ちゃんは?」


「あっ、私はイブマリーです。よろしくお願いします」


「そんなに警戒しないで、僕はちょっと魔法が得意なだけの一般人だよ。あの人たちの手下なんかじゃない」


その瞳は嘘をついているようには見えませんのでミリアたちの手先ではないのは確かなようです。ですが一般人にしては何というか、落ち着きすぎている気がします。


「ジュードくんは一人なの? 親御さんは? 」


ジュードは「んー」としばらく首を捻った後、こう言った。


「洗脳が解けたとか何とか言われてどこかに連れていかれちゃった。僕も悪い人に捕まりそうになったんだけど、この異空間に身を隠して何とか助かったってわけ」


「そんな……」


こんなあどけない少年の親さえも奪うなんて……信じられない気持ちでいっぱいでした。


「ただまだ見せしめと称して処刑はされていないんだ。おそらく城の牢に閉じ込められているんだろうね」


力なく睫毛を伏せるジュード。その顔に笑みはありません。私は思わずこう提案してしまいました。


「私、城の宝物庫まで行かなければいかないんです。宝物庫と監獄は近いですから、親御さん助けに行きますよ! 」


するとジュードはぱっと花開いたような笑みを浮かべます。


「本当? それは嬉しいな。でもお姉ちゃんだけじゃ不安だから僕もついてって良い? 」


「え、でも……子どもを危険な場所に連れていくわけには行きません」


「大丈夫、僕魔法は得意なんだ。きっと役に立つよ。それにお姉ちゃんは僕のパパとママの顔分からないでしょ」


しばらく私は反対したのですが、彼に言いくるめられる形で私は彼の同行を許可しました。


「それじゃあしばらくよろしくお願いします」


「うん! 僕頑張るよ」


ふふっと子どもらしく笑うジュードですが、時折覗かせる彼の表情は子どものそれではありません。


不思議な男の子だな……と私は心のなかで呟きました。


「あ、私の仲間がまだ外にいるのですが、連れてきても良いですか? 」


首なしの青年と子猫とは言えませんでした。


「仲間? ちょっと待ってね……」


ジュードが目を閉じてしばらく微動だにしなくなりました。すると不意に口を開きました。


「んー、魔力で探知してみたけどこの辺りにそれらしい人はいないね。もしかしたらもう移動したのかも」


「そうですか……」


もしかしたら先に宝物庫に向かっているのかもしれません。

それを察してか、ジュードはこう続けます。


「大通りはおっかないお姉ちゃんたちが見張ってるから僕の異空間を渡ってお城まで行こう。きっとその方が安全だよ」


「そうですね、ありがとうございます」


お安いご用だよ、と笑うジュードの背中を追うようにして、私は城へと向かいました。


アルベルトはおそらくカイウスのところに行ったのでしょう、宝物庫で合流出来ると良いのですが。



「ジュードくんのご両親はどんな方なの? 」


歩き続けながら私たちは他愛ない話を続けます。


「うーん、ママは料理が上手くて優しいよ、でも怒ると怖いんだ。パパは……すっごく強いんだ」


「そうなんだ。早くご両親に会えると良いね」


「んー、そうかもね」


何だか気のない返事です。


「お姉ちゃんのパパとママは? どんは人なの? 」


私の両親か……最後に見たのは私を娘と認識出来ず、冷たい目をしていた二人。


でも本当は優しくて頼りになる自慢の両親だったのです。


私も早くミリア様の魔法を解いて二人に会いたいな、アルベルトを紹介してあげたい。そんな気持ちでいっぱいでした。


「……二人とも優しい人よ。大好きなの」


「そうなんだー! お姉ちゃんも優しいし、良い両親なんだろうね」


「ええ」


するといつの間にか城の目の前まで辿り着いていました。見張りは二人。辺りを警戒してる様子です。


「うーん見張りがいるなぁ、どうやって城の中に入ろう? この異空間は残念だけど建物はすり抜けられないんだ」


「ジュードくん一度私だけこの空間から出して」


「え? 良いの? 」


私はこくりと頷く。するとジュードが分かったと答え、一回だけ指を鳴らします。

これが魔法解除の合図なのでしょう。


「!? 何者だ貴様」


「魔王の手先だな!? ここは通さぬぞ! 」


突然現れた私に狼狽する見張りたち。私はその隙を突いて二人の鳩尾に鋭い蹴りを入れます。


悶絶する二人はぱったりと意識を失いました。


これもカイウス先生直伝の万が一剣がなくても戦える護身術の一つです。こんなところで役に立つとは思いませんでした。


「おー、お姉ちゃん強いねえ」


「実戦は初めてでしたが……上手くいったようですね」


するとジュードが何の素振りもなく二人に燃え盛る火球を放ちました。間一髪、私がその火球の軌道を変えます。

逸れた火球は庭の草花を真っ黒に焦がしました。もし人間に直撃していたら? ……想像したくありません。


「何をするの!? 」


私は悲鳴にも似た怒号を彼に放ちます。


「え、だってトドメ刺してなかったから僕がやってあげようと思って……」


躊躇なく見張りを始末しようとしたジュードに私は少なからず恐怖を覚えてしまいました。


「そんな……駄目です! この人たちは操られているだけ、殺すなんてとんでもない」


「えー、なんでー? もしこの悪い人たちの目が覚めて襲われたら大変だよ! 」


ジュードは拗ねたように頬を膨らませています。


「それでも人殺しなんて駄目です。私たちは人を殺しに来たんじゃありません、あなたの両親を助けに来たんです」


「むー、分かったよ」


渋々といった風に彼は頷きました。子どもですよね……? でも先ほどの火球を放とうとした彼の顔は……悪魔のようでした。


「わーいお城だ! お姉ちゃーん行こうよー! 僕先に入っちゃうよー! 」


一足先に城門をくぐる無邪気なジュードの笑顔。しかし、私のなかでは、嫌な予感がぐるぐると渦巻いていました。


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